【斉木楠雄のΨ難 1】

□【Ψ [賽] は投げられた】
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「ん〜っ!おいし〜っ!」

「・・・・・・・・・・」

「やっぱり日本食が一番だわね〜」

「・・・・・・・・・・」

「ほら長年食べ慣れた味っていうの?外国の料理も悪くはないんだけど、やっぱりどうしても最終的に恋しくなる味はコレなのよね〜っ」

「・・・・・・・・・・」

向かいあって座る母娘は、久しぶりに日本に帰国した母親のリクエストで和食に舌鼓を打っていた。

「何よ どうしたの〜?せっかく久しぶりに会えたってのに、暗〜い顔しちゃって。お料理冷めちゃうわよ?」

テーブルに所狭しと並べられたのは懐石料理のフルコース。しかし母は自分の箸とは正反対に、愛娘のそれがほとんど動いていないことには気が付いていた。

まあもっと言えば、空港で再会した時から我が子の様子がいつもと違うことくらい母はとうに気が付いていたのだが。このまま娘からのリアクションを待っていても埒があかないと判断して、固い表情のままの名前にさらりと問いかけたのだった。

「・・・かんない」

「へ?」

「もうわかんないよ〜っ」

久留美とはまた違った意味で明るく悩みのなさそうな母のその声が、いまは何ともひどく恨めしい。

大好物のカニが丸ごとドンと置いてあったって、名前はとても手を伸ばしたくなるような心境ではなかった。







Ψ(Ψ)げられた】










息をしてはいけない。

ご飯を食べてはいけない。

眠ってはいけない。

ジャンプを読んではいけない。


[───大抵だ。大抵のことは何だって出来る]

幼い頃から自分に向かってそう豪語してくる幼なじみの少年に対して、『超能力を使うな』ということは、

それをまったく持たない自分にとってはそのように告げられるのとほぼ同じことなのだろうと───楠雄の持つ数々の能力のメリット・デメリットを幼い頃から散々間近で目にしてきた名前は、『超能力』というものに関してはまあ大体そんな感じで理解をしていた。

そして。

お互いの親が学生時代からの親友同士だったという彼ら二人は、厳密に言えば生まれる前からずっと近くにいてずっと一緒に育って来た。

楠雄にとっての超能力がまるで呼吸をするようにごく自然に彼の身に付いていたように、名前にとっての楠雄の超能力というのもまた、彼女に物心がつくよりも前からずっとずっとごくごく当たり前のようにその身近にあるものだった。

[女の裸など3歳で見飽きた]

それに名前は楠雄にはかつて心底からうんざりとした顔をして、そう告げられたことがある。

ゆえに生まれてから現在に至るまで、巷で大人気のアイドルどころかハリウッド女優やパリコレのスーパーモデルの裸というか、文字通りに彼女たちの骨までをも見透かせた幼なじみの少年に対して、こんなごく普通の・・・いや、むしろ一般的な日本人女性よりも更に貧相で貧弱な部類に入るであろう自らのお粗末な身体を披露してしまうということは、不可抗力とはいえ何ともまた至極申し訳ないことだと。

逆に名前は楠雄の超能力というものをあまりにも身近なものに感じて育ったせいなのか、彼に自らの裸を視られることに関しては、そんな風に何だかちょっと人とは変わった感覚でとらえていた。

・・・まあそれでも。

楠雄の持つ数多くの超能力のうちのひとつ透視能力を理解した当初、名前にとってはぶっちゃけ裸や骨まで視られることよりもずっとずっと重要だったのは、なぜなのか彼に自分の "下着姿" を視られてしまうということで。

『くーちゃんて何色が好きっ?!』

なんて。ある日突然名前に真顔でそんな質問をされた時、楠雄が飲んでいた麦茶を口からブボッと盛大に噴き出したのは言うまでもなく。

彼にとってそれは生涯忘れることの出来ない強烈な思い出のひとつだったりすることを───名前本人は、いまだに知る由もないことなのだった。
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