【斉木楠雄のΨ難 1】
□【 Ψドストーリー】
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Ψ【陽だまりの彼女】
人間の思考には、決して目には見えないのに色があると楠雄は思う。
明るい色、暗い色、温かい色、冷たい色。
それは超能力者である彼だけが持つ独特の感覚なのだが、とにかく楠雄にとっては人間みんな、少なからずそんな思考の色を持っている。
そんな70億人いれば70億通りある思考の渦のなかでも、名前のそれは独特で変わっていた。
そしてまず何よりも、彼女の思考はとてもふわふわでやわらかくてあたたかい。
それはまるで陽だまりのような。
例えるなら、そんな色をしている。
「あっぶないなぁ!」
スーパーからのおつかいの帰り道。道幅の狭い道路を歩いていたら、明らかに制限速度を無視したスピードで走り去っていく車に、名前は頬を膨らませて憤りを投げつけた。
「ああいう乱暴な運転してる人を見ると腹が立つよねっ。こないだなんてお父さんの運転する車を後ろからすっごい煽って来る車がいたんだよ?何回も車線変更したりしてちょー迷惑だったし、追い越したって結局次の赤信号でうちの車が追い付いちゃったしね」
[自分が事故を招くかもしれないハイリスクと引き換えにしているものが、一体どれ程くだらないものなのかがまったくわかってないんだろう]
エコバッグを片手にぷりぷりと思い出し怒りを始める名前の隣、車道側をしっかりとキープして、楠雄は彼女の話に耳を傾ける。
「まあでもね、その車のドライバーが実はとってもウンコしたくて大変なのかもしれないって考えるようにしたら、ならしょうがないかなってほんのちょっとだけだけど穏やかな気持ちにはなれるようになったよ」
[なんでウンコ]
「だってそんな人の為にイライラしてるのも嫌になっちゃうし。まあ発想の転換とゆーか、とにかく人間ココロにゆとりがないとだよねえ」
[・・・・・・・・・]
うんうんと自分で口にした言葉に自分で深く頷いて、彼女の怒りの思考はそこでガラリと切り替わる。
今晩の夕飯のこと、
日曜日の天気のこと、
週明けの英語の小テストのこと。
「あっ!ツバメが高い所飛んでる!明日はきっと晴れだよくーちゃんっ!」
[・・・よかったな]
「うんっ!」
次々にくるくると目まぐるしく展開していくその思考の "色" は、幼いから変わることなく忙しなくて目障りで。
なのに不思議なほど───心地よい。
普段は荒んだ色に同調しがちな楠雄の思考は、いま確かにあたたかな陽だまりを揺蕩っていた。
2016.12.14