【斉木楠雄のΨ難 1】

□【 Ψドストーリー】
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Ψ【何気ないのに】





子供の頃、母さんにおつかいを頼まれた帰り道。

おつりはお手伝いのお駄賃ねと言われた時、僕たちはそれを半分ずつに分け合った。

「うーん・・・肉まんとあんまんどっちがいいかなあ?」

[・・・肉まんと餡まん1個ずつ買って、半分ずつ食べればいいんじゃないか?]

「 !!? くーちゃん何それすっっっごい!!ナイスアイデア!!!」

[でも僕はコーヒーゼリーを買いたい]

「肉まんとあんまん1個ずつくださーい!」

[無視か]


そんな幼少期から数年が経過して。

おいしいものを食べた時、

綺麗な景色を見た時、

好きなタイプの音楽を聴いた時。

日常のそんなある瞬間に、ふと思い出す。

ああもしもいまこの場に一緒にいたのなら、おまえは一体どんな反応をするんだろうと。

『ねえくーちゃんこれすっごくおいしいよっ!』

『うわあキレーイ!』

『ねえねえくーちゃんこれなんて曲かなあ?』

喜怒哀楽が忙しいおまえはきっと、そうやってくるくると変わる表情で僕に語りかけてくるんだろう。

そんな幼なじみの様子は容易に想像が出来てしまって、

気が付いたら僕はその場にひとりなのに笑っている、怪しい人間になったりしてしまっているんだ。

一呼吸。我に返って、コホンとひとつ咳払い。こんな時は大抵燃堂や海藤たちが近くにいるから気を付けないといけない。

おいしいものならお土産にしよう。

綺麗な景色なら一緒に見たい。

中学までは通っている学校も同じだったし、なんやかんやといまよりもずっと共有するものが多かった。だから高校が別になって、離れてみてわかったこともある。

ひとりで食べるよりもひとりで見るよりも。

ふたりなら、その何倍も素晴らしくなるものがあることをおまえが教えてくれた。

これからもずっと、

おいしいものが食べたい。

綺麗な景色が見たい。

美しい音楽が聴きたい。

それを食べた時の、見た時の、聴いた時の、

おまえの笑顔が見たいから。

そんなクサい台詞、死んでも口になんかしないけど。






2017.12.04
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