【斉木楠雄のΨ難 1】

□【 Ψドストーリー】
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Ψ【キミにえた奇跡】






「おお〜 今度のBIG宝くじの一等当選金額は6億円だって。すごいねえ」

[名前。頼むからその話は父さんの前では出さないでくれよ]

携帯でニュースをチェックしていた幼なじみの少女がのんびりと口にしたその話題に、楠雄は至極真面目な顔で反応を示した。

6億円なんて大金、初詣の際『神様 楠雄様』などと言って宝くじの2億円当選を祈願していた父が聞いたらそれはもう確実にウザいことになるだろう。

普段からすぐに息子の超能力で我欲を満たそうとする自らの父親の軽薄な顔を思い浮かべ、楠雄はすぐにそれを脳内から追いやった。

「へ〜 宝くじの一等が当選する確率は、落雷に当たる確率と一緒なんだって」

[同じ "当たる" でも天国と地獄の差だな]

続けて宝くじの話題と一緒に掲載されていた豆知識の記事を読みながら、感心したように名前が言う。それがどういう計算をして導き出された答えなのかはわからないが、同列にするにはあまりに不憫なふたつに楠雄も思わず突っ込まずにはいられない。

「ホントだね〜・・───あ。」

すると。楠雄の意見に同意した名前はふと閃いたような表情になって顔を上げると、彼の顔をまっすぐに見て問いかけてくる。

「じゃあさ、宝くじで一等が当たるのと幼なじみが超能力者の確率はどっちが上かな?」

[ハ?]

「更にもう一人の幼なじみが超天才っていう確率と合わせたら、私ってとんでもないラッキー人間じゃない??」

[そのもう一人の幼なじみが超天才でドMのマッドサイエンティストなんて項目も付け加えたら、さらにすごい確率だな]

いきなりそんな突拍子もないことを言われた楠雄は目を丸くするが、もう一人の幼なじみと聞いた途端に思い浮かべたくもない変態兄の顔を思い浮かべてしまった彼の表情は、一瞬で氷点下に凍りつく。

楠雄の微妙な内心を知ってか知らずか、しかし名前はやはりとてもうれしそうにホクホク顔のままだった。

[・・・超能力者が幼なじみだとラッキーなのか?]

「うん!だって私 くーちゃんのおかげで毎日楽しいことがたくさんあるもん!いままでだって他の人には出来ない経験もたくさんさせてもらってるし・・・ああそっか!これってもう毎日が宝くじに当たってるみたいな感じなのかな?」

[・・・・・・・・・]

そうして弾んだ声で語る名前の脳内に浮かんでいるのは、これまで彼女が楠雄と共に過ごしてきた思い出の数々で。

瞬間移動で遠く離れた両親のもとへ連れて行ってもらったこと。

テレパシーで二人にしかわからない会話をして両親たちを困らせたこと。

念力で飛ばしたシャボン玉がキラキラ輝いて綺麗だったこと。

トランスフォームで一緒に "女子限定" バイキングに行ったこと。

他にも数え上げたらキリがない程のさまざまな思い出たちが、いまでも彼女のなかで大切な宝物として残っていた。

そして。

これまで名前と過ごしてきた時間が大切なのは楠雄にとっても同じことかそれ以上で、それは彼のなかでも昨日の出来事のように思い出せる色鮮やかなままの記憶だった。

[・・・そんな酔狂なことを言うのはおまえくらいだな]

「そうかなあ?・・・うーん、でもくーちゃんのそういうの知ってるのって、たくさんいる友だちの中でも私だけっていうのは、やっぱりちょっと優越感かも」

[ ! ]

「なんて 性格悪いね。ん〜でも本心だから隠してもしょーがないしなあ」

"───参ったねえ。"

そう言って、名前は困ったように眉根を下げて照れ笑いする。

「あ・・・っ!?大変くーちゃん!スペシャライザーの映画続編公開決定だって!」

[マジか]

そんな彼女の関心はすでに次の記事に移っていて、この話はここで終わるのだが。

"幼なじみが超能力者と知っていても平然と関わりを持ち続ける女の子と幼なじみになれる確率" は、一体どれくらいだろう。

名前が口にした友だちという言葉に、"友だち以上" の想いを抱く楠雄の胸は痛んでも。

それでも宝くじが1000回当たるよりもラッキーだと思える自らの幸運を、楠雄は人知れず噛みしめた。







おわり






2015.06.13
2017.05.13 加筆修正
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