【斉木楠雄のΨ難 1】
□【 Ψドストーリー】
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Ψ【ラッキー☆スター】
『あ〜あ 自分に超能力があったらなぁ〜』
と嘆くそこの君。
僕の名前は斉木 楠雄。超能力者だ。
超能力者としてひとつ助言をしておこう。
───止めとけ。超能力はクソだ。
確かにこの力があれば、どんな相手にでも片手で勝てることは否定しない。
だがそんなに誰かと闘って勝ち続けることに、一体何の得がある?
所詮同じ土俵にはいない相手だ。何の関心もなくなる。
超能力を駆使すれば、確かに金も簡単に手に入るだろう。見たこともない大金を手にして有頂天になるかもしれない。
だが いざ使う時になって気が付くのだ。
『別にコレ、金使わなくても手に入るじゃん?』
と。
金に興味がなくなると、そんな人間は次に何を求めるか?
世界一周旅行?人気芸能人を生で見放題?
まあそれは人それぞれ違うだろうが、人それぞれ自分の好きなものをすべて手に入れて、自分のやりたいことをやりたい放題やりまくった人間はいずれ必ず思うようになるのだ。
『あ、これ超能力でなんとかなっちゃうからもういいわ』
"必要だから" 、"便利だから" 。
人は自分の欲望を満たすためにモノを欲する。
だが超能力は便利で、欲しいものはお金と同じで大抵なんでも手に入ってしまうから。
なんでも簡単に手に入ることを知ってしまえば、途端に興味はなくなっていく。
そうしてやがて何を手に入れても満足しなくなった頃には、こう思うようになるのだ。
『車要らない』
『家要らない』
『国いらない』
───『地球要らない』
かつての僕は、本当にそう思うようになったことがある。
まあ僕の場合その理由はあらゆることに興味をなくしたと言うよりも、あらゆることに失望の念を抱くようになってしまったからだったが。
いっそのこと全部なくなってしまえばいい。本気でそう思いかけたことがある。
───なのに。
超能力者がそう思いかけた時に限って、いつも。
「あっ くーちゃんいた!あのねコレっ、きょうママとはじめてコーヒーゼリーつくったからいっしょにたべよぅ・・・っぎゃっ?!」
[ ! ]
「・・・っは──・・セーフ!コーヒーゼリーぶじ!よかったー!ありがと〜くーちゃん!」
[・・・気を付けろよ]
本当に、超能力なんてクソだ。
僕はこのうっかり者の幼なじみがコーヒーゼリーを手作りしていたことなどとうに知っていたし、完成したそれを持って彼女が僕のところにやって来ることも当然知っていた。(そしてコーヒーゼリーをぶちまける勢いでコケそうになるのももはや想定内のことだ)
この力のおかげで僕は、普通の人間が得られるだろう喜びも驚きも感動も、こんな風にすべて奪われてきた。
───それに。
「あのね きのうイトコのおねーちゃんのけっこんしきだったの!はなよめさんとってもきれいだった〜っ」
[・・・おまえも大人になったらすればいいだろ、結婚式]
「うん!そのときはくーちゃんぜったいみにきてねっ!」
[・・・・・・・・・]
超能力を使っても手に入らないもの。
超能力を使って手に入れてもまったくうれしくないもの。
そんなものも、この世界には少なからず存在する。
そしてそれは、"本当に欲しいもの" に限ってそうだから。
本当に本当に、超能力なんてクソだ。何の役にも立たない。
───でも、もしも。
(くーちゃんのはなむこさんもきっととってもカッコいいだろーなあ)
[・・・・・・・・・]
「あれ?くーちゃんどーしたの、かおあかいよ??」
[・・・なんでもない]
(あ・うんち!?)
[チガウ]
そうもしも、すべてを知っていて。
それでもこうして偽りのない本心で、まっすぐな心を向けてくれる。
そんな酔狂な人間が、もしも。
もしもこうして側にいるというのなら。
それがわかることは超能力者にとってやはりとても厄介で───だけどでももしかしたら、天文学的確率の数少ないラッキー・・なのかもしれない。
おわり!
2015.06.12
2017.05.13 加筆修正