【斉木楠雄のΨ難 1】

□【 Ψドストーリー】
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つい先日暦の上では春を迎えたと言うのに、その週末はそれを嘲笑うかのような寒気の影響で、関東地方でも記録的な積雪となった。

『くーちゃーん!おっきな雪だるま作ろー!』

『楠雄ー!かまくら作ってくれー!母さんと雪見酒やりたいんだー!』

朝から1日かけてじっくりと降り積もった雪は、優に30センチ近く。半世紀ぶりと言われる程の大雪ともなれば、隣家の少女やあの父母がはしゃがないはずもない。

降り続ける白を眺めながら、予知能力で視るまでもなく楠雄が予見した未来というのは先程寸分違わずに現実のものとなったのだった。















Ψ【毎日スペシャル】












「おじさん、おばさんと雪見酒出来て喜んでたね」

[喜んでたっていうか、現在進行形で喜んでるけどな]

斉木家と名字家に、それぞれひとつずつ完成したかまくら。自宅の方向の "それ" から聞こえる両親のイチャコラ声は、しっかりと楠雄の頭の中に届いていた。

そんなものは幼い頃から聞かされ続けて慣れたものだが、名前の言葉に楠雄は眉間にシワを寄せて答える。

あの父親は、自分の息子が持つ超能力を便利な機能としか認識していない節がある。そんな父に散々にせがまれた結果、コーヒーゼリー向こう2週間分と引き換えに、楠雄は本場雪国もビックリのかまくらをあっさりと作り上げた。

[いつものことだが、あの自分ですべてをやり遂げたかのような父さんのドヤ声がイラッとする]

「ドヤ声って・・・まあまあ、コーヒーゼリーもたくさん手に入るし、おばさんも喜んでるし!親孝行だと思ってさ!」

完成したかまくらを前に母さんと二人きりで入りたいなんぞとぬかし始めた時は、いっそのこと北極にでも移動させて北極グマと "相合かまくら" させてしまおうかとも思ったくらいだ。

それでもこうして名前に宥められ、更には最初1週間分だったコーヒーゼリーに+1週間分を上乗せして、楠雄は父のその図々しい申し出を了承することにしたのだった。

(でも私もかまくらなんて初めて入った!ありがとねくーちゃん!)

そんなわけで、名前の家側にも作ることになったかまくら。

これだけの雪が自然に降ることは、やはり都会ではそうめったにあることではない。いつもはせいぜい雪ウサギや雪ダルマを作って終わる程度のものなので、楠雄の作ったかまくらには彼女もとても喜んでいた。

[別に・・・僕も、かまくらは作ったことも入ったこともなかったしな]

楠雄の母が編んだお気に入りの毛糸の帽子を目深にかぶって、先程まで雪遊びをしていた名前の頬っぺたは、りんごのように赤く染まっている。

無邪気にほころぶその花のような笑顔に、楠雄は思わず照れ臭くなってつっけんどんになってしまう。

「かまくらの中って思ってたよりあったかいね!」

明日の朝明るくなったらご近所でも噂になりそうなくらいに巨大なかまくらの中には、レジャーシートやら簡易テーブルやらがセットされ、名前が持ち込んだお菓子が並べられていた。

楠雄が生来反応の薄い性質だということには全然慣れっこだったので、彼のそれが冷たい態度だとも、名前はいま露ほどにも思ってはいない。それどころか、その手に持った甘酒のようにほっこりとした笑顔を浮かべて、雪を眺めながらのんびりのほほんとしている。

[・・・こんな時父さんなら、"君と見る雪は特別に綺麗で好きだよ " くらいの甘い台詞はあっさりと口にするのにな]

まあ実際にはそれよりももっとドロドロに甘ったるい歯の浮くような台詞が自宅側のかまくらから聞こえてきていて、自分はそんなことは口が裂けたって絶対に言えないし、言うつもりもないと楠雄は思ったのだった。

───しかし。

「あったかいねえ」

[ ! ]

両手に持った甘酒を口もとに運んで、名前はそううっとりとつぶやいた。外はまだまだしんしんと雪が降り続き、気温は氷点下に近いにもかかわらず。

夜の帳が下りてきて、あたりは一面が真っ白に染まっている中で───けれども楠雄は確かに、彼女の口にするその "あたたかさ" を自身でも感じていた。

震える程寒いはずなのに、確かに。


[おまえといて特別じゃないことなんて、僕には何ひとつだってないんだ]

"すべて" 知っていて。

それでも名前は、超能力者()の存在を受け入れてくれている。

そしてこのあたたかさを、こうして身近に感じることができる。

それは半世紀に一度の大雪が降ることよりも特別なことなのだと───父親張りのそんなキザったらしいことを、楠雄は何のてらいもなく、無自覚に心から思った。








おわり!







2014.02.12 拍手掲載
2014.09.05 拍手より移動
2017.05.13 加筆修正
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