【斉木楠雄のΨ難 1】
□【変わらないものと、変わってゆくもの】
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[だから余計に放ってはおけなかったのかもしれないな]
「へっ?何?いまなんか言った?」
[ナンデモナイヨ]
「???」
楠雄の呟きを断片的に耳にした名前は、きょとんとした表情でこちらを見上げてくる。しかしあまり深く追及されても困るので、楠雄は小さく肩で息をしてただ一言でそう答えた。するとそんな彼の態度に、名前の表情はますます濃いハテナマークを浮かべる。
(も〜 なんかヘンテコりんなくーちゃんだなあっ?)
[おい、ナマエ。"聴こえてる" ぞ]
「 "聴こえるように思った" んですぅ〜」
[・・・・・・・・・]
意味ありげな物言いをしたままで話を切り上げた楠雄の態度に、隠し事をされていると感じた名前はすっかりとヘソを曲げてしまった。
彼女は次に "い〜" と顔をしかめて見せると、そのままひらり踵を返してリビングを通りキッチンへと戻って行く。
[やれやれ]
怒れる幼なじみが消えて行った扉の向こうを視て、楠雄は再びため息をつく。
豚汁用に野菜の皮剥きを頼まれているはずの彼女は、このままだと一体何個のジャガイモを剥いてしまうだろう?頬っぺたを膨らまし唇を尖らせている姿には、悪いと思いつつも苦笑を漏らしてしまう。
まったく高校生に成長したと言うのにいまもこういう時の子供みたいな仕草が、名前は昔からちっとも変わりやしない。
そして、"聴こえるように思った" なんて。
そんなヘンテコな日本語が通じ合う相手なんて、家族以外にそういない。
いや、きっと一生。
名前以外に、そんなオンナいやしない。
[機嫌なおせよ、バカナマエ]
(バカって言うヤツがバカなんだよっ!)
[なら、どうしたら機嫌が直る?]
(────・・)
廊下とキッチンで、壁とテレパシー越しの会話。
少しの沈黙の後に再びひょいと扉から覗いたのは、一瞬前までは確かに尖っていたはずの口もとに、イタズラな笑み浮かべた名前だった。
「PK学園て、数学の進みうちの高校より早かったよねっ?」
[・・・わかったよ。後で教えてやるから]
「わ──い!ありがとくーちゃん!!」
"───大好きっ!"
そう言って飛び付いてきたのは、やはり昔と変わらない花のような笑顔で。
その向けられた "大好き" を受け止める自分の気持ちだけが、以前とは形を変えた想いを名前に寄せているということに、楠雄の胸はやはり痛んだ。
ψ【初恋のΨ難】
『変わらないものと、変わってゆくもの』
2012.10.08
2017.04.17 加筆修正