【斉木楠雄のΨ難 1】

□【友達っていうか○○でした】
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(さっき帰って来る途中にね、いきなり暗がりからPK学園の制服着た人に声かけられたからびっくりしちゃった)

[・・・それが海藤だったと?]

(うん。もうすっかり暗かったし、あと昔とは少し感じが変わってたから、最初すぐには海藤くんだってわからなかったけど・・・)

[・・・ああ、ヤツは高校デビューだとか何とか言っていたな]

( ? 海藤くん予備校で一緒だった頃は眼鏡だったし。あと私、そもそも彼がPK学園に通ってること自体知らなかったからホントビックリしちゃったよ)

ぶつぶつとひとりごちる楠雄に、名前はきょとんとした目を向けつつも大きく肩を竦めた。

そうしてその後海藤の話をよくよく聞いてみると、その話の内容から彼が手描きの似顔絵まで作成して探している人物というのが楠雄で間違いないことがわかり、内心で二度ビックリしたのだと彼女は語る。

『え。海藤くんて、楠雄とクラスメイトなの?』

海藤に対して思わずそうポロリと口走らなかった自分を褒めてほしいと、名前は楠雄に胸を張るのだった。

そして海藤の語る話の内容から推測し、そこで楠雄の名前を出してはいけないのだときちんと名前は察したようだ。おかげで自分と彼女が知り合いで、尚且つ自宅が隣同士の幼なじみだということまでは今日のところは海藤にバレてはいないらしい。そんな不幸中の幸いに、楠雄はホッと胸を撫でおろした。

(それにしても海藤くんがくーちゃんの友達だったなんてビックリしたよぉ)

[友達じゃないぞ]

(くーちゃん燃堂さん以外にも友達が出来てたんだねえ)

[燃堂も友達じゃない]

(海藤くんてすっっごくいいひとだから、彼がくーちゃんと友達になってくれて私とってもうれしいなあ)

[・・・・・・ハ?]

(あのね、海藤くんはね、)

[ ! ]

そうニコニコと語る名前に、楠雄は露骨に嫌な表情を浮かべる。しかし彼女から伝わってきたテレパシーには、名前が海藤を "いいひと" だと語る理由がきちんと鮮明な映像で添えられていた。

それは中学校の制服を着ている名前で、学ランを着てボサボサな頭に黒縁眼鏡をかけた少年…どうやら学習塾に通っていた時代の海藤との思い出らしい。

楠雄自身はその塾には通っていなかったが、たまに遅くなった名前を (母によって半ば強制的に) 迎えに行ったりしていたので、彼女のテレパシーから伝わって来た情報で背景の建物がそれだとわかる。


『海藤くん、ありがとう・・でも、もういいよ。きっと見つかんないよ・・』

『い、いや!塾に来るまではあったんなら、き、きっとこの建物のどこかには必ずお、落ちてるよ・・・っ!』


[───誰この人?]

中学生の名前が話しかけて振り返った少年の顔を見て、今日の下校中に海藤に遭遇した時にも思ったことを楠雄は再び思う。

・・・いや、まあ外見は確かに楠雄もよく知る彼ではあるのだが。しかしいかんせん学校や自分の前での話し方や立ち居振舞いと、名前への接し方が違いすぎるのだ。

現在の公の場での中二病的言動はどこへやら。名前と話す海藤はおどおどとしていて、そんな傾向は一切見られない。そしてそれは、先程彼女が遭遇した現在の海藤もそのようだったことが何よりも驚きだ。

楠雄と知らずに "素" の自分で話しかけてしまった時、海藤はすぐさまそれを引っ込めて『別人格に体を乗っ取られた』だのと訳のわからない取り繕い方をしていたというのに。

『───あっ?あ、あった!こ、これじゃないかっ?名字さんっ!』

『え・・・っ?あ、そう!それ・・・!』

誰もいなくなった教室の片隅で、机の下をひとつひとつ覗き込んでいた二人。不意に海藤が何かを見つけたらしく立ち上がり、名前に見せようと手にしたものを差し出して。

そしてそれには、楠雄も見覚えがあった。

なぜならばその、海藤の手のなかにあるクマのぬいぐるみがついたキーホルダーは、楠雄が名前に誕生日プレゼントとして贈ったものだったからだ。

「海藤くんね、私がくーちゃんにもらったクマのキーホルダーをなくして困ってたら、一緒に探してくれたんだよ」

[・・・そういえばそんなことがあったと言っていたな]

二年近くは前の出来事を楠雄もようやく思い出す。

あの日は名前の帰りがいつもより遅く連絡もつかないから迎えに行って来なさいと母に言われて、テレビを観て渋っていたらエライ形相で凄まれたのを覚えている。

まさかあの時あの "クマ" を一緒に探してくれた塾のクラスメイトというのが───海藤だったとは。

あの日名前に身ぶり手振りを交えて興奮気味に説明された時は、ぼんやりとしか伝わって来なかった人物が、楠雄の脳内に海藤の姿をして浮かぶ。

『ありがとう・・・!海藤くん!本当にありがとう!!』

『・・・よかったね。た、大切なものなら、もうなくしちゃダメだよ』

『───うん!』

それは名前の視点から語られている為、彼女の顔こそ見えないものの。

海藤の言葉に頷きを返す名前の声はとても弾んでいた。ならばその表情はきっと、あの自分もよく知る花のような笑顔に違いない。

そんな名前を見る海藤の表情は、ひどく複雑そうな苦笑いを浮かべているように楠雄には見えて。

その苦笑いは───もういままでに何度も楠雄が見てきた、この鈍感な幼なじみに想いを寄せる男たちのそれと、まったく同じだった。

[・・・アタマガイタクナッテキタ]

先程再会を果たし、名前の前では未だに自分を取り繕っていなかった海藤の真意を思い、楠雄はやはりこれは厄介事だったのだと頭を抱えたくなる。

[・・・友達になるより何よりも前に "ライバル" になっていたとはな・・・]

(え? 何か言った?)

[・・・何でもないよ]

小さく肩で息をした楠雄に、名前は案の定キョンとした顔付きでそう問いかけてきた。それは確かに彼女には意図的に聴こえないようにした呟きだが、聴こえたところできっと、まあ十中八九この超絶ミラクル鈍感娘には伝わるはずもないだろう。

微妙に揺れ動く、思春期の青少年たちの繊細なコイゴコロなど。

しかし。

(───あ。 くーちゃんまたナマエに隠し事してる)

[・・・・・・・・・]

名前が最後に思ったそれは、彼女が楠雄に伝えようと思って思った訳ではない思考。

いや、思考と言うよりかは感覚的なものに近いもの。

"寂しいな。"

"くーちゃんは最近時々、すごく遠いひとみたいになる。"

無意識と言っていいくらいの深層心理。名前自身すら自覚の乏しいその気持ちは、楠雄にテレパシーでしっかりと伝わってしまう。

幼い頃から超絶鈍感な癖に、やはり昔から変なところで鋭さを発揮するのが、この幼なじみの少女だった。

そんな名前に向かって好き勝手に走り出す…どう扱っていいのか持て余し気味な自らの気持ちに対する楠雄の戸惑いを敏感に、しかし何だかちょっとだけ、歪曲した感じで彼女は察知していて。

だって言えない。

───"まだ "。

自分のことをただの "幼なじみ" としか思っていないとわかる相手に対して。

彼女がそこに "大切な" という冠詞をつけてくれている分、余計に。

普通じゃない自分。

僕と名前は、あまりに違いすぎるから。

それはもはや、別の生物と言ってもいい程に。

なのに。

[・・・そんな相手にこんな気持ちが芽生えるなんて、]

───どうかしてる。本当に。

でも止まらない。止められない。

例え超能力でも、この気持ちを変えることは不可能だ。




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