【斉木楠雄のΨ難 1】

□【友達っていうか○○でした】
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Ψ【友達っていうか○○でした】












(ねえ くーちゃん。瞬間移動したところ、海藤くんに見られちゃったの?)

[────・・]

ブボッ!夕食後自室でテレビを観ながら完全にくつろいでいた楠雄は、アルバイトを終え斉木家に夕飯を食べにやって来た名前に突然心の声+きょとんとした顔付きでそんなことを訊かれて、飲んでいたお茶を盛大に噴き出した。

[・・・なぜおまえがその名前を知っている?]

テレビの番組表には目を向けつつも "ただいま〜" といつもののんびりとした調子で玄関をくぐる、至極馴れ親しんだ気配には勿論しっかりと意識を向けていた。

そして出迎えた母やリビングにいた父との会話も程々に、名前が割とすぐ自分のいる2階へと上がって来たことを多少なりともおかしいとは感じていたのだが。

噴出したお茶を几帳面に拭いてからコホンとひとつ咳払いをして、楠雄は幼なじみの問いかけには問いかけで返した。

そこで。いまさらながら確認させてもらうと楠雄が通うのはPK学園で、名前が通っているのはTK高校である。

そして冒頭名前の口にした "海藤" というのは、"漆黒の翼" こと "海藤 瞬" という名前の楠雄のクラスメイトのことで、

またの名を "秘密結社・ダークリユニオン" と闘う "スクライドセイヴァー" であり "純平" (←楠雄命名) でもある彼とは、楠雄自身高校に入学してから知り合った。

その為通う高校自体がまったく違うこの幼なじみの少女とヤツの間には、自分の知り得る限り特別な接点はないはずだが。

自らにまとわりついてくるという意味では海藤も燃堂と同じく要注意人物ではあったが───そんな訳もあり、すっかりと油断していたところで名前から思いも寄らぬ質問をされて、珍しくお茶を噴き出すというような失態を犯してしまった楠雄なのだった。

(あ・そっか。くーちゃんに言ってなかったっけ?あのね、私と海藤くんて中学の時に通ってた学習塾が一緒だったんだよ)

[・・・マジかいな]

楠雄の驚きに反して、真相はまあそんな感じで結構簡単に明るみに出た。

彼に対して隠し事をしても無意味だと言うことをこの幼なじみの少女はとてもよく知っていたし、そもそも名前にとってのそれは隠し事でも何でもないことだった。ゆえに何も勿体振って出し惜しみするような話でもなかったので、彼女はケロリとした表情で楠雄の疑問にあっさりと答える。

ただし。それは名前にとってたいした話ではなくとも、反対に楠雄にとってはあまり…と言うか、まったくもってありがたくも知らされたくもない衝撃の真実だったりする。

[ "世間は狭い" とはよく言うが、狭すぎだろう]

先日の燃堂に引き続き、またもや知られたくない相手にこの幼なじみの少女の存在を知られてしまった。

『注目されること』や『目立つこと』と同等なくらいに嫌なことと言っても過言ではないそれに、楠雄は何とも言い難い目眩と脱力感を覚える。

名前の存在というのは、

楠雄にとって、もういまさら改めて語る必要もない程に特別で。大切で。

そこには誰にも容易に踏み込まれたくはないし、現在の関係とペースを乱されたくはない。

年頃の男女というのは、とかく一緒にいるだけでもからかいや邪推の対象になりやすいものだから。

幼稚園からずっと小・中学校と一緒だったという経験から、いまでも楠雄はそれを思い出すと苦虫を噛み潰したような気持ちになる。

高校が別々になったことによって増えた "余計な心配" や感じる寂しさというのは確かにあるものの、それとはまったく別の意味で手に入れた平穏というものがやはりあるのだ。

[・・・いや、待てよ]

そして、そこまで考えてからふと楠雄は思案する。

そもそもの話。その真相からいくとするならば、海藤と知り合ったのは名前の方が自分よりも断然に早かった訳で。

燃堂の時とは違い、それは彼自身が油断をしなければ避けられた遭遇という訳でもない。とっくの昔に楠雄の預かり知らぬ場所で発生していた出会いだったのだから。

ならばむしろ考えようによっては二人が知り合いだったことをこうして事前に知り得たのは、"今後この二次小説に起こり得るありがちで面倒な展開" の為にも───まあ謂わば、不幸中の幸いだったと言えるのではないか。

そんな感じでマイナスに向かいかけた思考を、楠雄は無理矢理にプラスへと持っていこうと試みる。

・・・いや。まあぶっちゃけた話をすればこの真実を知ることになった事態そのものこそが、実はまた彼の油断と言うか誤算が招いたものに他ならないのだったが。

それはつい昨日の放課後の話だった。燃堂に振り回されて帰宅時間がいつもより遅くなってしまった楠雄は、どうしても観たいテレビ番組があった為にテレポート能力を使ってしまったのだ。

とはいえ超能力を外で行使する場合、当たり前だが細心の注意を払うようにしている。昨日もテレポートをする前に、テレパシー射程内の200m以内まではきちんと人の気配に気を配っていたのだから。

───しかし。

そんな注意を払って行ったテレポートの瞬間を、何と『街を監視していた』と語る海藤に目撃されてしまっていたのだった。

200m以内ならいざ知らず、倍以上の500m先から双眼鏡を使用となるとそれは完全に楠雄の想定外だ。

そして更には『PK学園の制服を着て頭にツノのようなものを生やし、緑色の目をしていた』というようなところまでバッチリと見られていた為、おかげで今日は朝から肝を冷やす羽目になったのだが。

それでも、幸いなことにその人物の顔までは目撃していなかったと語る海藤の行動を授業中に千里眼を使用し観察したり、下校中実際に彼がその "トリッカー" なる者を捜しているところに遭遇したりしたことで、海藤の本当の目的が『斉木くんと友達になりたい』と言う、ただ単純にその一心だったことがわかった。

海藤自身に超能力者を追う意志がないのならば、自分にとって彼はなんら脅威ではない。

よって、他人とは深く関わるつもりがないと割り切る楠雄は、見つかるはずもないトリッカー捜しに必死な海藤を尻目に早々帰宅をしたのだった。

[もうすぐ9時か・・・アイツ、こんな時間までずっと捜していたのか]

例え500年を要したところで見つかるはずもないであろうレベルの似顔絵を手に、"素" をさらけ出して懸命に自分のことを捜していた海藤の姿を、楠雄は思い出す。

実を言えば帰宅してからもチラチラと時折頭を過るそれが、彼の気分を落ち着かなくさせていた。

しかし。ひたすらに平穏を望むならばなおのこと、このまま海藤のことは放っておくのが得策なのだ。

いまさら "友達" などいらない。

自分と他人は違いすぎるのだ。それはもはや、別の生物といっていい程に。

そんな相手に対して友情など芽生えるはずもないし、

超能力者であることを隠してまで他人と関わるには───その秘密はあまりに重く、大きすぎて。

何よりも。

[・・・いらないんだ、]

多くを望めば、たったひとつの譲れないものさえも失いかねない。

『───くーちゃんっ!』


ナマエ。

僕には、おまえさえいてくれれば。





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