【斉木楠雄のΨ難 1】

□【アラシノヨルニ】
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───約10年程前。

それは彼が、初めて彼女に恋を意識した頃の話。













Ψ【アラシヨルニ】















ピカッ

ドーンッ

ゴロゴロゴロ・・


[・・・・・・・・・]

楠雄が夕飯を食べ終えて風呂から出て来ると、外からはもうそんな風にハッキリとした雷鳴の轟きが聴こえ始めていた。嵐のような雨が降り始めるのも、最早時間の問題というところだろう。

日暮れと同時に訪れたのは、夜空を覆う分厚い雲と不穏な風。夕方の予報では、今夜はこれから明日の朝にかけて急激に相当な荒れ模様になると言っていた。

しかし、生まれつき身についていた超能力のおかげで小学3年生にして常人よりもかなり研ぎ澄まされた感覚の持ち主である楠雄は、既に朝方から最新の気象予報データよりも正確に大気の流れを感じ取っていた。

ゆえに現在の外のこの状況は、彼とその家族にとってはまったく予想の範囲内のことだった。

「あらあらさっきから急にすごい雷。くーちゃんの言ってた通りになっちゃったわね〜」

「楠雄くんの天気予報は相変わらず気象庁よりも正確だな〜」

やはり相変わらずに能天気な両親はそう言って、テレビを観ながら食後早々に一杯やり始めていた。夜には天気が荒れるということを出勤前に我が子に告げられていた父は、今日は絶対に残業にならないようにと朝から目一杯上司の靴を舐めて来たらしく、帰宅はいつもよりもだいぶ早かった。

[・・・・・・・・]

そんな感じでご機嫌に酒盛りをする両親を尻目に、しかしいつになく険しい顔つきで、楠雄はカーテンの隙間から入り込む稲光を眺めていた。

───いや。

正確には、そのカーテンの向こうにある、"隣の家の方角" を眺めていたのだったが。

ピカッ、ドド───ンッ!!!

[ ! ]

「ひゃ・・っ」

「うおおっ」

すると次の瞬間、稲光とほぼ同時に大きく雷鳴が轟いた。それは自宅の壁がわずかにだが震えるくらいの衝撃音で。

これにはさすがの両親も驚きの声を上げ、肩を竦めていた。

外からハッキリと伝わるそんなただならぬ気配に不安気な母に、

『大丈夫、ママと楠雄は僕が守るよ!』

とか何とか言って父は握りこぶしで力説して母をときめかせているようだが、ハッキリ言って楠雄の耳にはそんな両親のやり取りはまったく届いていなかった。

それは楠雄がいまの大きな雷に驚いたとかそういうことではもちろんなく、そして彼が父親のことをどうでもいいと思っているとか、勝手にしろとか思っているのとはまったく別にして───楠雄の "耳" にだけ届いている、ある "声" の存在があったからだった。

「こりゃ相当近いなあ。ひょっとしたら停電するんじゃないか?」

「大丈夫よ、くーちゃんに言われて懐中電灯とか色々用意してあるもの・・・って、あらっ?そういえばなまえちゃん大丈夫かしら?」

「え?名前ちゃん?」

「今日は夫婦揃って学会に出席するって言ってたのよね。夕方には帰るから、なまえちゃんのことは大丈夫って言われてたんだけど・・・もし終わる時間が延びていたら、帰宅の足に影響が出てるんじゃないかしら・・」

と、母がそこまで父に説明した時だった。

ド───ンッ!!!

これまでで一番の、一際大きな雷が辺り一帯に響き渡る。その瞬間室内の照明は消え、突然に暗闇が訪れた。

「おふぅうっ、やっぱり停電?!」

「やだ、くーちゃんちょっとお隣に行っ・・───あら?くーちゃん?」

落雷に父がビビりまくり、急いで母が用意してあった懐中電灯で照らした先には─── 一瞬前までそこにいたはずの楠雄の姿は、もうどこにも見当たらないのだった。
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