【斉木楠雄のΨ難 1】
□【そもそもの生い立ち】
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それからやがて時が経つにつれ大きくなった男の子は、自分の持つその特殊な力のデメリットさも思い知らされていく。
手を触れずにスプーンを曲げたり、
伏せられたカードがわかったり、
他人の考えてることがお見通しだったり。
例えばそんなことが出来たって、
カレーが食べにくくなって、
神経衰弱がただの作業になって、
聞きたくもない相手の本心までを知らされるだけだ。
大金なんていらない。
鼻をかむ紙なら、ティッシュで事は足りるから。
苦労して何かを成し遂げた時の達成感も、サプライズパーティーでサプライズされることも出来ない人生。
男の子は自分を、"生まれた時からすべてを奪われた世界一不幸な人間" なのだと、強く思うことが増えていった。
───でも。
「ちょっとちょっとくーちゃんとなまえちゃん!いままた "こころ" の中でお話してたでしょう!」
「あっ!・・・ごめんなさぁい、くるみおばちゃん」
[・・・ごめんなさい、かあさん]
「んも〜う!ふたりが仲良しなのはとっ──ても嬉しいけど、でも仲間外れはさみしいわっ!だからママや他のみんなにもちゃあんとわかるように、声に出してお話ししてねっ!ふたり共わかった?」
「はぁ〜いっ!」
[・・・はい、]
「って言ってる側からくーちゃんたらテレパシーじゃないのまったくぅ〜っ!」
(あははっ!ホントだ〜)
[おまえもな]
怒りや悲しみのない代わりに、感動や喜びのない平坦な人生。
しかしそんな日々の中にもあたたかく、のんびりと平和に流れる空気というのが確かにあって。
男の子が力に取り憑かれてダークサイドに堕ちなかったのは、この穏やかで優しい母と───活発で天真爛漫なお隣りの家の女の子。彼女たちと過ごしてきた時間の存在が、やはり非常に大きかった。(まあ母親の方はたまに尋常じゃない程にブチ切れることもある (主に自らの夫に対して) のだが)
そう。
その男の子 "くーちゃん" こそ───いまや高校生となった斉木 楠雄であり、
"お隣の女の子" とは、彼の幼なじみ名字 名前なのだった。
ψ【初恋のΨ難】
『そもそもの生い立ち』
2012.09.06
2017.03.22 加筆修正