お話。

□うたかた。
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このまま とけて消えてしまいたい。
彼はチョコレイトのように甘ったるく、
1度味わうと やめられない中毒性があった。

初めて指に指がふれたとき、このまま死んでしまうかもしれないと思った。

そして、
この人は必ず いつかここから離れてゆくとわかった。

その日が来たら、わたしはとけて死んでしまう。

でも、それはきっと 哀しいことではないのだろう。


「さやちゃんって、
ほんとうに だめな男の人が好きだよね」

駅からほど近い小さな居酒屋で、
鶏のからあげをつまみながら、ビールをごくごく飲む。
菜乃ちゃんの飲みっぷりは、見ていて気持ちいい。

「そうかなあ。やっぱり、そうなのかなあ」

「そうだよ。わたしの知る限り、そうだよ」

揺るぎない自信をもって、菜乃ちゃんは云った。

「たとえば、やさしくて思いやりもあって、お金持ちで温かいひとがいてさ。
『さやちゃん、好きだよ』って言ってきたとしても、
さやちゃんはその真逆の冷たくて、
ちょっと乱暴なひとのところにいくんだよ。きっと」

わたしは「うーん、そうかなあ」を、くり返しながら、
焼鳥を頬ばって、ビールをちびちび飲む。

「そうだよ。
だって、さやちゃんは、そういうひとが好きなんだもん」

菜乃ちゃんは、さっさとジョッキを空にして、
ビールの追加と一緒に、だし巻きたまごと
枝豆、豚の角煮を注文した。
度胸も食べっぷりもすばらしいのに、
どうしてこんなに華奢なのだろう。

「でも、それじゃあ、
わたし一生、幸せになれないよね」

「うーん。そうだね。
一般的にいわれる 幸せは、むつかしいかもね」

「幸せになるためには、わたしが変わるしかないんだね」




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