お話。

□水玉はちみつ。
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夢の中で、雨の音を聴いた。

わたしは、その水の中を泳ぐ金魚だった。
まんまるで赤い、ふわふわのしっぽの。

そこで 樹くんに出逢った。
樹くんは赤くて、しっぽだけ白い金魚だった。

「あ、樹くん」

そう思ったとたんに、涙がぽろぽろとこぼれた。
でも、それは水にとけて わからない。

金魚の樹くんは 笑っていた。
そして、しっぽを揺らしながら、
いってしまうのだった。


目が覚めると、ほんとうに 雨がふっていた。

むっくりと 体をおこす。
雨の音が、しずかに部屋中を満たしている。
樹くんは、となりで眠っていた。

トイレにいったあとに、また布団にもぐりこんだけれど、
もう眠たくはなかった。
体が、まだ空の中を泳ぐ、水が肌にふれるかんじを 覚えている。

「ホットケーキ、食べたい」

となりで寝返りをうちながら、樹くんがいった。

「樹くん、おきてたの」

「ん。ちょっとまえに起きた」

「朝ごはん、ホットケーキにするの?」

「うん。作ろうよ。
こどもの頃、雨の日外で遊べないときは、
ホットケーキ焼いたんだ。
姉ちゃんとと兄ちゃんとと3人で。
誰がひっくり返すか、ケンカしながらね。
いま、思いだした」

「そうなんだ。ちょうどあるよ。
このまえ 実家から送られてきたやつ。
たまごと牛乳も。はちみつ あったかな」

「なかったら、買いにいかなきゃ」

樹くん、外は冷たい雨だよ、という意味をこめて、
カーテンを開けたけれど、樹くんは怯まない。

「ホットケーキには断然はちみつだよ。
かわりは利かないからね」

と、いってさっさとトイレにいってしまった。




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