お話。

□まるい世界のその果てを。
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よく晴れた 6月のはじめの土ようびに、
わたしたちは動物園にいった。

樹くんもわたしも、久しぶりに同じ日に
おやすみがとれたから。
そして、わたしがずっと
「きりんが見たい」と熱望していたからだ。

「お弁当のおにぎりは3種類ね」

と、わたしが言うと、

「たまごやきは甘いのにして」

と、樹くん。

ハンバーグのたねは、二人で せっせとこねたけれど、
焼くときに ちょっと焦げてしまった。

樹くんもわたしも トマトが苦手なので、
全体の色あいがあまりよくない。
なので、パプリカの赤と黄色が 大活躍する。

ちいちゃい頃にいった 遠足もそうだったけれど、
たいていのことは、その日を待ちわびながら、
あれこれ準備しているときが、いちばん楽しい。

本来の楽しみは、いざ始まってしまうと、
さらさらと流れて、あっというまに過ぎてしまうのだ。
ゆっくりと、味わうまもなく。

みどり色の電車に揺られて 上野につくと、
「お茶を買おう」
と樹くんがいった。暑がりなのだ。

飲みものと お菓子を買うと、
わたしたちはずんずん歩いた。

樹くんとわたしは、まず順ぐりに見てまわる。
パンダ、ぞう、いろんな鳥、ゴリラの森、白くま、ペンギン。
わたしたちは、その動物の行動を報告しあう。

「見て!あの子。
あんなところにのぼって 落っこちそう」

「ぞうって、体のわりに目が優しいね」

「白くま、もう生成り色だね」

「ゴリラって、なんておじさんぽい」

「あ、猫だ」

樹くんの指差したさきに、白い猫が歩いている。
人のあいまをすました顔で、
さっさとかわして、行ってしまった。




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