うたかた こと。

□ホタル。
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闇の中で、やっと気づいた。

それは、儚いけれど、とても強い。

すぐに消えそうで、哀しいほどささやかな光。






ホタル。






このまま溺れるとわかっていても、

君を手放してあげられなかった。



僕を許して。








「沖田さん、」





僕を呼ぶ声が、かすかに震える。

頬にふれると、涙がこぼれた。

それに口をつけると、苦しそうに瞳を伏せる。





「・・・だめです」






僕の腕に手を添えて、戸惑いながら、

そっと押し返そうとする。

その指ごと、食べてしまおうか。






「お願いですから、」






生温いやさしさを求めたのは、

変わり続ける時代の中で、

呼吸をするのも、苦しくなったから。






「ごめんね?」






遊びでよかった。それなのに。

僕の欲望には、終わりも果てもなかった。

なつかしい歌にも似た、君の声。






「やめてあげられなくて」





「沖田さん、」






苦しげに寄せられた君の眉にも、口をつける。

愛おしいのと、壊したい衝動と。





「だめです、」





胸もとをぎゅっと握りしめて、

君の瞳が、しずかに強い光を放つ。

頬に触れると、涙でほのかに冷たかった。






「沖田さんを、汚してしまう」






正しいものは、きっとこれじゃない。

それでも、一向にかまわなかった。





「いいよ、」






忘れたくない。

心にも、体にも、刻みつけたい。

たとえそれが、消えない傷になるとしても。







「汚していい」






甘いことばを耳にとかして、





「君になら、」





たとえ、あざやかで短い幻だとしても、




「君となら、」




僕は、どこまで堕ちても、





「汚れたってかまわない」





「沖田さん、」






僕らは、京に来て、

紙のような翼で、どこか遠いところまで、

羽ばたこうとしていた。





斬ることでしか生きられなかった、

死に様で示すことしか出来なかった僕に、

生きることへの意味をくれた。







「僕の命、君にあげる」






ぜんぶ、もっていっていいよ。







君の髪のあいまから、甘く匂いたつ。

耳をかじると、声がもれて、夜にとける。

痛みでさえ、こんなにも愛おしい。






「好きだよ」







僕と君の、哀しいほどささやかな光。

それは、幻。








   スピッツ「ホタル」より。





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