うたかた こと。

□青い光。
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空をみたのは、別に初めてなわけじゃない。



それなのに、あなたのとなりで見る空は、

なぜだか、いつも以上に綺麗で儚くて。



それは、手をふる君のようで、

涙があとからこぼれては、消えた。




終わりのきょうと、始まりのきのう。







青い光。






「総司さん、」





君はなんども、僕の名前をよぶ。




すこしでも姿が見えないと、まるで迷子のように。

いまにも泣き出しそうな表情(かお)をして、

僕の名前をよぶんだ。






「おいで。大丈夫だよ」






僕の声を聴いて、初めて君は笑う。

心からほっとした笑顔で、かけよってくる。

頬にふれると、まるい瞳がこちらを見あげる。




いつからだろう。

指先がふいに、とけるような感覚になったのは。




こんなふうに穏やかな時間を食(は)んでいると、

うっかり忘れてしまいそうになる。


君と僕の、限られた刻。







「僕のこと、忘れてもいいよ」



「総司さん、」



「ごめんね」




君を笑わせることも、泣かせることも、

とてもたやすくて、僕はそれが怖くてたまらなくなる。




僕は、君をのこして逝くのに。






「いやです」



「もう、」



「いやです」




それだけ泣いているのに、

君の瞳は、どうしてそんなに強い光を放つのか。




「一日でも、一刻でも忘れたら斬ると、

云ってくださらないと、困ります」





君を包むこの両手の先にあまった場所に、

しびれる程、冷たい風が吹く。





「・・・君は、ほんとうに意地っぱりだね」




まっすぐで呆れるくらい、潔癖で。

そんな君を、僕は。




「総司さん、」



「ん、」



「総司さん、」



「うん」



「総司さん、」




僕の返事も待たないで、何度もくり返し、

君は僕の名前をよぶ。

止まらないことば。かわらかな匂い。




もう僕の耳には、それは愛にしか聴こえない。





「総司、」





僕の名前に、込められた「好き」に、

うまく表現できないけれど、

僕も君と同じくらい、切ないはずだよ。




僕の胸に顔をうずめて、君が泣く。

心のゆく先を決め付けることは出来ない。

それでも、君はここにいる。



消えてしまう、ひとりぽっちになる、

僕のとなりに。






「・・・笑って」





どうか明日も、その未来(さき)も。





「君の、笑った顔が好きなんだ」





それが、最期であっても。





「総司さん、」







風がすべてを浚(さら)うように、吹き抜ける。

愛しい君の、笑った顔。笑った声。

指先から、とけてゆく。





君の向こうにある、

ただ突き抜けるほど晴れた空。






好きだよ。













   aiko「青い光」より。





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