ゆめ 花と惑星。

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夕方の匂い






「おー、いいねえ」



「さっきの洋装も悪かねえが、

こっちの方が可愛らしいんじゃねえか」



「女の子がいると、やっぱ華やぐもんだなあ」



「まあ、悪くはないんじゃない」




まわりの人から注目されながら、

着物に袖を通すのは成人式以来だったので、

なんだか妙に気恥ずかしい気持ちになる。



髪もすっかり江戸の町娘風にまとめられていて、

知らず知らずのうちに、背筋がしゃんと伸びてゆくのがわかった。




「ところで、この着物はどうしたんだ?」




原田さんが、胡坐をかいたまま見あげる。

きなり色に桜の花が散りばめられていて、帯は柄に合わせた桜色だ。



「近藤さんが買ってくれたんだよな」



藤堂さんが、にこにこ云う。



「女子の着物のことは、詳しくないんだが・・・」



近藤さんは、そう云って頭をかいて笑った。



「店の者が勧めてくれたものが気に入って、

思わず買ってしまったんだ。

君さえ良ければ、貰ってくれるかな?」



きっと忙しい中で時間を割いて、

わざわざ買いに行ってくれたことは、すぐにわかった。

何度もお礼を云って、着させて貰うことにしたのだ。




「へえ。わざわざ局長に買いに行かせたんだ。

君って居候なのに、ずいぶん良い待遇だね。

近藤さんは、ほんとうに優しいなあ」



「・・・申し訳ありません」




沖田さんの言葉には、わたしはあやまるしか出来ない。

彼は棘を隠さないので、それをまともに受け取ったら、

きっとここではやっていけないだろうな、とぼんやりと思った。



「・・・支度は出来たようだな」




すらりと障子が開いて、斎藤さんがこちらを見た。

はい、と返事をして顔をあげる。




「母屋にて、近藤さんがお呼びだ。

あんたのことを、家人の方々へ紹介したいと」



「はい」



「それって、僕も行ったほうがいいのかな?」




わたしの隣でのんびりあくびをしていた沖田さんは、

首すじに手をあてながら、口元で笑った。

ちらりと視線を落として、斎藤さんがため息混じりに言う。




「小森は、あんたの預かりだろう」



「やれやれ。手が掛かるったらないなあ」



「・・・すみません」




わたしは、二人それぞれに頭をさげる。

さっさと歩き始める斎藤さんを追うように、

重たい腰をあげながら、沖田さんがわたしの背中を押す。




「粗相なんかして、僕に恥をかかせないでね」



「・・・はい、気をつけます」



「京のひとは、みんな気難しいからねえ。

八木さんたちにしたって、僕たちのことも、

まだ警戒しているみたいだし・・・。

万が一にも、彼らの気に入られなかったら、

君の居場所はどこにもなくなっちゃうね」



「・・・・・・」




思わず身構えそうになるわたしを見て、

ケラケラ笑いながら、藤堂さんが手のひらを振ってみせる。




「まあ、そんな心配すんなって。

八木さん家、みんな優しいからさ」



「まあ、普通にしときゃ心配ねえよ」



「総司、あんまり脅かしなさんな」




井上さんに窘(たしな)められると、

沖田さんはなぜだか楽しそうに笑って、「はーい」と間延びした返事をした。

わたしは、ほっと胸をなでおろして、ため息をついた。





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