お話。

□まるい世界のその果てを。
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思いのほか、動物園は 広かったので、
わたしたちはどの動物も 見逃さないように歩いた。

どの動物も「もう人間なんてあきあき」といったふうで、
気だるそうに寝そべったり、あくびをしたりしていた。

わたしたちが 何年に一度しか来ないここは、
彼らにとって日常なのだ。


きりんは、悠々としてそこにいた。

恐竜のように、ただ優しく、のびやかに。
わたしたちより、遥かに 遠い場所を見ていた。

「動物の視界って、色がないってほんとかな」

「じゃあ あの子とわたしは、
同じ場所にいるのに、別世界だね。
なにを 見てるんだろう」

「たぶん空と、お日さまと、ちっぽけな俺ら」

「なんかシンプルだね」

「うん。
たいていのことは、シンプルに出来てるもんなんだよ」

きりんのまつげが、静かに影をおとす。

この世界で 空に いちばん近い存在。
もしかしたら、世界の果てまでも
見えているのかも知れない。

それから、わたしたちは 手をつないで帰った。

「楽しかったね」

「うん」

にこにこする樹くんの横顔をみて、
ああ、なんだか安心すると思った。
この人のとなりは、安心する温度なのだ。

たくさんの動物をみたけれど、
樹くんの顔もちゃんと見ておかなくちゃ。
あとどのくらい、こうして見ていられるか、わからないもの。
そんなふうに思って、夕暮れを歩いた。

世界の果てが来るまえまで。

このひととずっと一緒にいようとおもう気持ちも、
突き詰めればきっと、とても単純でシンプルなことなのだ。

わたしたちの足元を、
夕やけ色にそまったあの白い猫が通りすぎていく。




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