短編

□君
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いつから、

失っていたのか



―君―












晴れ渡る空。

周りは緑がたくさんの森。

ふと見上げれば鳥が群れをなして飛んでいる。


私はその空の下、森の中を歩いてる。

何をしているのか、と聞かれたら私は答えられないと思う。


私は忍じゃない…ただ、行き先も目的も何も決まってない旅人。

いや、私みたいな人を旅人なんて呼んだら怒られてしまうかもしれない。

まぁ、とにかく私は何の取り柄もない普通の人って事だ。



だけど、そんな日々を送っていた私もある日をきっかけに変わってしまった。


その日もいつもと変わらず、私はただただ歩いていた。

ちょうど森の真ん中らへんだろう。

次の里へ着くには少しばかり時間がかかる場所でもあった。



ドサドサっという音がして、その次に何か刃物がぶつかり合う音が聞こえた。

しまった、と思った。

私が前へ進もうとしている道の先で忍が闘い合っているのだ。


私は方向転換して、来た道を戻ろうとした。


そう…足を一歩踏み出して走り出せば良かったのだ。なのにそれは出来なかった。

恐怖で足が動かないんじゃない。


何かに足を捕まれているような…引っ張られているような…そんな感じだ。



「おい…」



すると私の後ろから男の人の声が聞こえた。


振り向く事は出来る、が、振り向きたくない。



「おい…聞いてんのか?」



やっぱり私に話し掛けてるんだ。



「なんで、すか?」



振り向かずに答えた。

体も声も震えているのが自分でも分かる。



「…」



その人は何も答えなかった。



「!?」



その代わりに私の目の前に一瞬で現れた。

驚いた。


一瞬で現れた事はもちろんそうなのだが、私の目の前に現れたその人は赤色の髪の美少年だったのだ。



「お前、忍じゃないな…」



「え、あ、はい」



今分かったのだが私の体が動けないのはこの人の指から紐みたいなのが出ていて、それで縛られているからみたいだ。



「クククッ」



と、突然笑いはじめたその人。

何が可笑しいのか私にはさっぱりわからない。


なので私は目の前にいるその人をただただ見つめることしか出来なかった。


それで気づいたけど、この人は怪我をしているらしい。

顔は傷だらけだった。

ただ、傷のできかたに少し違和感はあったが。

まるで物を落としてヒビが入ってしまったかのような傷。



「あの…怪我…」



「なんだ?」



「怪我…してるから、良かったら私に見せてくれませんか?」



私がそう言うとその人はすごく驚いていて、眠そうだった目が大きく開いた。



「お前はこの状況がわかってて言ってるのか?」



まぁ確かにこの状況からだとそんな言葉は出ないだろう。

はっきり言って私はこの人に捕まっているわけで何をされるかもわからない。

だけど言ってしまったのだから仕方ない。



「はい…そうみたいです」



私がそんな答え方をすると彼は腹を抱えて大笑いし始めた。







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