短編

□君
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「お前…面白いな」



どきん――…



そう言って微笑んだ彼の笑顔に私の心臓の音がうるさく鳴りはじめた。

心なしか頬も熱くなってきた。



「だが…」



微笑んでいた彼の顔が一瞬で消えた。

それは深い悲しみに似たような表情になった。



「お前にこの傷はなおせねぇよ」



「えっ…?」



彼は私を縛っていた紐みたいなものを解いた。



「悪かったな…怖い思いさせて。いつもの俺だったらお前みたいなのは殺すんだが今日は気分が良い。早く行け」



「い…」



「…?」



「嫌です!」



「なっ!?」



また驚いた顔をした彼。

だけど私は彼から離れたくない…ここで離れてしまったらもう一生会えないんじゃないかと思って、つい出してしまった言葉。


私はつくづく馬鹿らしい。

思ったことをすぐ言葉にして発してしまう。



「えっと…」



だけど訂正は効かない。


私は走って彼のもとへ近寄った。

そして一言、



「怪我見せてください」



と言った。



「お前…本当に面白いな。ここまでくるとバカとしか言いようがねぇな」



「ば、バカ!?…ってまぁ否定は出来ないですけど。それより怪我…」



そう言って彼の顔に触れようとした手を捕まれた。



「だから、お前じゃ直せねぇんだよ」



「な、なんでですか!?」



そんなに私が頼りなさそうに見えるのだろうか。

そんな事を思ったがその考えは彼の次の言葉によってすぐに打ち消された。



「俺は"ヒト"じゃないからだ」



「…え?」



今何て言った?

ヒトじゃない?

そんな事言ったって私にはヒトにしか見えない。



「俺は"人形"だ…」



その言葉と供に私の手を掴んでいる彼の手の力が少し強くなった。


あっ…そういえばなんでこんなに手が冷たいんだろう。

まさか、本当に人形なの?



「嘘、ですよね?だって人形になんて全然見えない…」



「嘘じゃねぇよ…手、触ってんだから分かってるだろ?」



私はギュッと握られた手を振り払った。



「分かりません!私は貴方が人形だとは思いません。だって人形は笑ったり驚いたりしないです。それに…」



彼の手を振り払った手で、私は彼の左側の胸に触れた。

やっぱり…と思った。



どきん、どきん――…



私の勘は当たった。

左側の胸に触れれば生きているものになら必ずある心臓の音が聞こえてきた。



「ここは温かいです」



「ッ!?」



「だって音が…」



私が説明しようとした時、彼は私の事を抱きしめた。



「え、えっ!?」



もう何が何だかわからない。

心臓は今までにないぐらいドキドキいってるし、頭は真っ白だし。



「………ありがと」



私がパニック状態になっていた時、小さな声だったが彼の声が聞こえた。



「怪我、もう治ったみてぇだ」












のおかげで―
(俺のこの気持ちも)(感情があることも)(お前に対する思いも)(今、気づけたんだ)




修正20120815
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