TEXT

□熱性愛情論 前編
1ページ/4ページ



自宅の庭で、不審人物を見つける。

この、一般家庭では大事件になりそうな事態も、我が志村家では日常茶飯事の出来事である。

主に姉のストーカーやら、そのストーカーを追いかけてきた部下の黒服やらがその筆頭で、姉が施した対ストーカー用のトラップが数多く仕掛けられた庭には、それにうっかり引っかかった忍者がぶら下がっているなんてこともたまにある。


では、そのストーカー対策用トラップの一つである落とし穴に、物凄く危険な香りのする、包帯グルグル巻きの死体が転がっていた場合はどうしたらいいだろう。


万事屋に勤めだしてから、色々なトラブルに巻き込まれる確率が格段に上がった新八ではあるけれど、それでもこの事態にはすっかり思考が停止し、かれこれ3分はその場に固まってしまっていた。


(遂に、やってしまった。)


常々そんな気はしていたのだ。

我が家に訪れるストーカー及びその関係者は、トラップに引っかかっても10分もあれば回復して動き出すが、何も知らない人がうっかりうちの庭に紛れ込んだ場合、どんどん苛烈さを増していくトラップに命を落とすことがあるのではないかと。


だが、今5m下に転がっている、見るからに一般人ではない男が、こんなことで死んでしまったりするだろうか。


頭から顔から露出した腕までぐるぐるに包帯を巻きつけた人物に、新八は覚えがあった。

包帯の間から飛び出す髪色は、毎日一緒にいる同僚の神楽と同じ色だ。


だらだらと、背筋に汗が滴り落ちる。


あの頑丈で馬鹿強い神楽を『弱い』と称したあの人が、なんでこんな所で落とし穴に嵌っているんだ。

しかも、ぐったりと穴の奥底に投げ出された身体はぴくりとも動かず、最初に思った通りまるで死んでしまっているように見える。


物凄く見なかったことにしてしまいたいが、何せここは自宅の庭だ。

新八は渋々ながらも持ってきた縄梯子を穴の中に下ろし、地獄の釜にも思えるその先へ降りていった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ