◇桜散華
□序章
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───桜の化身。
それほどに
彼の者は
凛と佇み
儚い夢のように
美しかった。
「───誰?」
その言葉に
はっと我に返った沖田は
一呼吸置いて問い掛けた。
「…今晩は。
ここで何をしてるのかな?」
桜の下の人物は
戸惑う事なく答える。
「月を愛でていました」
そう言った後
僅かに微笑む。
「そして
沖田総司…貴方を待っていました」
不意に己の名を呼ばれ
刹那、心臓が跳ねた。
ふと
切り取られてしまっていた空間から
現世に引き戻されると。
彼の者の足元に
かつて
人間であった
骸。骸。骸。
乾いて
闇色に近付く血の
僅かな隙間に覗く
浅葱色。
それは容易に
己が所属する
新選組の隊服を連想させた。