上琴小説「長編」


□九章 そんなのわたしが許さない
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大切な物。
それは時に自分よりも大切になり、それしか見えなくなってしまうこともある。

大切な物。
それは時に他者に絶望を呼び込む物にもなる。

今、彼女にとってそれはどのような存在なのだろうか。

答えは彼女しか知らない。








翌日御坂はケータイのアラームで目を覚ます。

もちろん着メロなどは流してはいない。
ケータイのバイブ音だ。

現在朝の5時半である。

普通に考えたら明らかに早起きしすぎだろう。

だが、御坂はそれを承知の上である。

彼女には目的があった。

そう、誰にも言えない秘密の計画が。

それを実行するためにこんなにも早く起きたのだ。

御坂「さてと、当麻が起きないように急いで着替えないと」

御坂は静かにパジャマから制服に着替える。

御坂「・・・・・」

着替えている間、御坂は今までのことを思い出していた。

そう、今寝ている彼にに会った時から今までの記憶を。

初めてちゃんと話し合ったのは確か7月の夏休みに入る前の日だっただろうか。

御坂「アイツが不良に絡まれている私の前に現れたのよね・・・・」

そうだ、全てはここから始まったと言っていい。

それから幾度も幾度も勝負を挑んで、全て負けてきたのだった。

御坂「結局、勝ったのは一回だけか・・・・ふふ、ちょっとへこんじゃうなぁ・・・・それから・・・ああ、妹達のことがあったわね」

過去に一方通行をレベル6シフトさせる計画があった。

一方通行に妹達を二万人、あらゆる戦闘シチュエーションを用意させて殺すことでレベルが上がるという実験だ。

妹達の事件では本当にお世話になった。

実際、当麻が助けてくれなかったら自分は死んでいた。

当麻の言うとおり、妹達もそれでは喜んでくれなかったかもしれない。

自分ではどうしようもできない絶望にたたずんでいた自分を、ボロボロになりながらもアイツは引きずり上げてくれた。

御坂「ホントにバカなんだから。

でも、嬉しかったな・・・・妹達に手を出すのはちょっとアレだけどさ」

洗面台に行き、歯を磨いて髪を整える。

さて、あと何があっただろうか。

少しずつ思い出してみる。

御坂「あ、そういえば夏休み最後の日に恋人ごっこしたわね」

夏休み最後の日に、二人は恋人ごっこをしたのだった。

原因は海原光貴と言う理事長の孫だ。

アイツがしつこくつきまとってくるので、当麻に恋人役を頼んだのだ。

御坂「あの時アイツが言ってくれた言葉は・・・嬉しかったわね。

今思えばあの時から私は当麻のことが好きだったのかも・・・・」

あの時のことを思い出し、少し赤面する。

今思えば良い思い出だ。

御坂「他にも色々あるけど、やっぱり当麻と付き合うことになったのが一番嬉しいわよね。

まさかこんなことになるなんて思わなかったし」

そこで御坂は鏡に映る自分の顔を見る。

御坂「よしっ!しっかりするのよ私!」

気合いを入れるために自分の頬を叩く。

再びリビングに御坂は戻る。

ふと、黒子が用意してくれた大型の鞄が目に入った。

御坂「これは・・・もう必要ないわね。

当麻、悪いけどここに置いて行かせてもらうわ」

一人呟く御坂。寝ている当麻の顔を見つめる。

御坂「気持ちよさそうに寝てるわね。

あ〜あ、もう一回人生があったらなぁ。

そうしたら取り逃したゲコ太のグッズとか買えたりできるし、もう一度当麻とやり直せるのに」

御坂「(・・・今度はもっと素直な私ならいいわね。

そうしたらこんなに苦労しなかったのに・・・)」

自然と涙が出てきた。

もう泣かないと決めたが、我慢ができなかった。

御坂「もぅ、何で涙が出てくんのよ・・・余計悲しくなるじゃない。

・・・ごめんね、当麻。ホントにごめん・・・・。

でも、後悔はしてないわ。
・・あ、ちょっとあるかも。

もっと当麻といろんなことしたかったし・・・・将来、け、結婚とか・・・したかったわ・・・えへへ、結婚かぁ・・・」

一呼吸置くつもりで、御坂はいったん涙を拭う。

御坂「はぁ、ここは笑って出ていくつもりだったのに・・・泣いちゃうだなんて情けないわね私。

当麻・・・・アンタは誰もが幸せになるそんな世界を、未来を望んでいたけどさ、それはもう叶わない。

だから、ごめんね。私は今、当麻の夢をまた壊そうとしてる。

でも、それでも私は・・・・きっとアンタに生きて欲しいんだと思う。

好きだから、アンタが世界で一番好きで・・・一番大切な存在だから」

ふと時計を見てみる。いつ彼が起きるか分からない。

そろそろ行かないと間に合いそうになさそうだ。

御坂「・・・そろそろ行かなきゃ。

・・・当麻、じゃあね。

・・・・・・さようなら」

御坂はそっと当麻の頬にキスをして、寮を出て行った。
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