短編
□愛しい人はワンコになりやがりました
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『うるさい、黙って』
いつのことか忘れたが、彼はそうオレに言った。
クールでほかのことに無関心。
それがオレの好きな人。
そんな彼がある日突然豹変した。
「ひなあああ!!!!」
ドドドドと大げさな音を出してこちらに駆けてくるのが、オレ大好きな人。
オレより一回り大きな体で思いっきり抱き着いてくる。
「…あの、お前がオレに抱き着くことによって前へ進むことが出来ないんすけど」
「…ゴメン」
パッと離れたかと思えばシュンとしてそこで立ち止まってしまった。
「…ほら、今から学校行くぞ」
オレは愛しい人、いや外見は愛しい人に手を差し伸べた。
悲しい顔が一瞬でパアと明るくなりオレの手を取って満足げな顔を掲げてオレの横にピタとくっついた。
まるで犬みたい、と思う。
そう、どうやらオレの愛しい人の中に犬が憑依してしまっているらしい。
それはさかのぼると数日前、オレはまぁ特にやることもなく家でだらだらしてた。
「日向、あんた暇なら買い物に行ってきてくれない?」
「ん?…いいよ」
オレは母親にお使いを頼まれ近所のスーパーまで足を運んだ。
冬の寒い日だった。
このへんは雪が降るわけではないが風が強い。
「さっみ」
少し外に出るだけにこんなに厚着してるってのもめんどうな話だよなとか思いながら手に息をかけながら見慣れた道を歩く。
「わんわんっ!!!」
「お、あれ?シロじゃない」
目の前には近所で飼われている真っ白いスピッツって犬種のワンコがいた。
「なんだ〜お前また脱走したのか?もう、だめだぞ」
シロはときどき脱走してこの地域の人に連れて帰ってもらっていた。
それにしてもワンコもふもふかわいいな〜。
オレはシロと目線が合うようにその場でしゃがみひたすらもふもふしていた。
「わふ」
シロも気持ちよさそうに目を閉じて大人しくしていた。
「シロはかしこいな〜。ほらほら、オレが送ってしんぜよう」
シロはオレの言葉を理解しているのかわん!と答えてくれた。
「…また馬鹿みたいなこといってる」
この声は、田代 雅人。
オレの幼馴染で同じ男子校に通う超秀才イケメ…オレにはイケメンの大好きな人。
「…マフラーからの自分の息で白く曇ったメガネをかけているやつには言われたくないよ」
…クールぶっているが少し抜けているところがかわいい、とオレは思い込んでいる。
「…お前んちの愛犬をお家まで届けようとしてたんだ。ちょうどいいしシロ送るついでにお前ん家まで行く」
幸いスーパーへ行く道の途中に田代の家はある。
「…まぁいいけど」
表情ひとつ変えないで自分の家の方へ進んでいった。
…オレはなんでこんな奴のこと好きなんだろうか。
まぁ、単純に女の子ダメなだけなんだけどね。
中学の時、近所の公立の中学に通っていたオレは自分でいうのもなんだけれどそこそこモテた。
外見はまぁ母親に似て少し中性的だったのがあって女子には関わりやすいという印象を与えていたのかもしれない。
ただ、選ぶ相手を間違えていたのだと思う。
中学生の思考回路なんて単純で馬鹿。
やはり見た目がいいやつは印象がいいし、告白してきた奴がクラスで一番かわいいと評判の子だったならもちろん付き合うのが順当だと思う。
まぁそこで判断を誤っていたのだから、やるせない。
中学生にしては相当ませていて、オレの彼女は何股もしていた。
まぁそれだけならそいつ最悪だな程度で終わったんだけど、そいつは相当変態で…、うっ気持ちわりぃ。
彼女の性欲が強くてセックスなんてすぐしたし、一度に何回というのが普通だった。
それがエスカレートしていき、野外でしたいとか複数でしたいやら隠し撮りしなさいよ、とかもう中学生の頭では処理できない程のエロいことを彼女の強要されたのだから仕方ない。
そりゃうらやましいという人もいるだろうけど、実際自分の彼女が性に溺れていてビッチな上にド変態ときたら、もう彼女というよりは肉○器だなぁと思ってしまうわけですよ。
それでも、別れてくれなくてしつこくストーカーされてリスカを目の前でされて、自分の取り巻き(男)たちと乱交させられて…。
うえ、思い出しただけで気持ちわる。
そして逃げるように男子校にきた。
っても、やはりやりたいざかり。
ホモが氾濫していた…。
普通に気持ち悪いと思ったけれど、まぁここは人間離れしたイケメン様と美人様がおられるので田舎でそこそこのオレは男子校では平凡というポジションを見事に手に入れたのである。