あかいはな
□さびたくびわ
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何をしていたのだろう。
ここ最近の記憶が曖昧で、今少し意識が鮮明になったところだ。
そういえば熱をだしていたような気もする。
僕はただ、リリアがこの世から去ってしまった現実を受け入れたくなかった。
だが、頭の奥底では理解しているのかずっとあの血に染まった水仙の前に座り込んでいることが多かった。
何もせずにただ、その白い水仙の花を眺める。
時に黒く染まる幻覚をみることもしばしばあったが、発狂するたびに彩都か藤川が傍にいてくれた。
僕も精神的にまいっているのだろうか。
多美子さんも同じような気持ちなのだろうか。
…いや、彼女のほうがきっと辛い思いをしているはずなんだ。
あぁ、あの人は今何をしているのだろう。
何を思っているのだろう。
貴方が闇に迷い込んでいるなら、僕が連れ戻してあげたい。
そう思った。
「兄さん」
「彩都…」
「だいぶ落ち着きましたか?これをどうぞ」
僕の好きなお茶とモナカを持ってきてくれた。
「彩都は優しいな」
彩都は僕にただ優しく笑った。
正直彩都の態度に戸惑っっていることもあったが、優しいのには変わりないし何より好意を寄せていてくれているのだ。
別に悪いことなんてない。
それに…彩都は多美子さんのことを知っているから。
でも、いくら聞いても何も教えてくれなかった。
これ以上踏み入らないように。
僕はいつもそうだ。
除け者にされて…。
「どうしました?」
「あ、…いや大丈夫。なんかごめん。迷惑ばかりかけてで」
「かまわないですよ。兄さんのためですから」
彩都は優しい。
優しさが怖い。
「なぁ、彩都。なんでお前はこんなにも僕に尽くすの?変わらない優しさを与えてくれるの?教えて…くれ」
「それは…」
彩都の顔つきが変わった。
あの時のように妖しい顔つきに…。
「彩都様、お客様でございます」
突然声が聞こえた。
部屋の入口に藤川が立っていた。
「…わかった。じゃあ失礼します。兄さん」
彩都はまたいつものような顔に戻り部屋を去って行った。
助かった…。
自分から仕掛けたとはいえ少し怖かった。
あの時の彩都は怖い。
…いや、彩都はわからないことだらけじゃないか。
昔はあんなに仲が良く、どんなことでも話あっていた。
あの頃が幻想だったのだろうか。
「…藤川、ありがとう」
「何が、でしょうか」
「いや…何でもないんだ」
「左様でございますか」
そういえば、藤川も僕が幼い頃からずっとお世話役をしてくれている人だ。
きっと今の僕と同じくらいの歳の頃にはもうすでに使用人として仕えていたのだろう。
藤川は比較的若い。
そう考えると、藤川は本当にすごい。
何もできない僕とは違って自立しているのだから。
「ねぇ、藤川」
「なんでしょうか」
そう、藤川もあまり感情が豊かな方ではない。
あまり笑わない。
「昔はさ、よく遊んだよね。彩都と三人で」
「…」
「僕、正直少し彩都が怖いんだ…。この頃特に…。ねぇやっぱり不機嫌なのかな。それとも…」
多美子さんが原因なのだろうか。
「…彰人さんが心配なされているような理由ではないと思います」
「そっか…」
そう、昔は藤川も笑顔の方が多かった。
いつからだろう。
どこから歪み始めたのだろう。
「…ねぇ、僕は藤川のこと信頼しているよ」
藤川は変わらない無表情で僕を見た。
「だから、ひとつだけお願いを聞いて欲しいんだ」