あかいはな

□ものくろなけしき
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※多美子視点




言ってみれば出会いなんて簡単なもの。

私の飼っている猫リリアちゃんが家出をした。
リリアちゃんはメスのはずなのに、家を出たっきり帰ってこなかった。
大好きなリリアちゃん。
窮屈な家庭にある唯一の癒しだったのに…。
また退屈な日々が過ぎてしまうのね。

女学校に通わせてもらっているぶん、楽しい生活は送っている。
けれどどこか仮面をかぶっていて本気でぶつかりあえる人がいなかった。

とにかく新しいことが欲しかった。
刺激が欲しかった。

安心できる場所が欲しかった。
対等に人と付き合いたかった。

矛盾。
私には縁談の話も多くきていて、頻繁にお見合いが執り行われる。

結婚したくないわけではない。
ただもう少し待って欲しい。
心から愛せる人でなくてもいいから、もう少しだけ自由な時間を。

そんなとき、変わった感じのお見合い写真がきた。

今までは完全にいまいちぱっとしない顔ばかりでいまいち乗り気ではなかったが、今回は違った。
いや、だからといって気になったわけではない。
ただ、異様だったのだ。
日本人らしくない西洋まじりの美しい顔。
彼が、噂の…。
まさか私に縁談がくるとは思わず、驚いた。

本当にきれいな顔。
まるでつくりものみたい。
どんな性格なのかしら、どんな人なのかしら。
私にとっておもしろい遊びをみつけた感覚だった。



お見合い当日。
玄関で大勢の使用人に出迎えられてその豪邸に足を踏み入れた。
異様な空気をまとっていた。
混濁した空間、居心地が悪い。
まるで機械みたいね。
若い女性は本当にほとんどいないわ。
あの噂は本当のようね…。
おもしろい。

家の中にはやはり数名若い女性がいて、私を睨めつけてきた。
あぁおもしろいわ、本当に。

その時、どこかから聞きなれた鈴の音と猫の声が聞こえてきた。

あの猫は…もしかして…

私は一心に走り出した。


探しても見つからない。

確かいたはず!





にゃあ…



また聞こえた。


この部屋から。




襖を開けると空気が変わった。
澄んでいる…というのが正しいのかもしれない。

純白のリリアに、それを抱く儚い少年。
綺麗…。
何物にも穢れていない綺麗な人。
まさに彼だと思った。
長く伸びた前髪が憂いを帯びていた。
ただ、やはり人形のように扱われているのか彼は病的な雰囲気を醸し出していた。

この人は…いったい誰?
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