あかいはな

□あかいはな
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あいかわらず部屋で過ごす日々がすぎていた。
ただ変わらない景色をぐるぐるぐるぐる永遠と見続け朽ちていく運命なのだろう。

そう感じると、使用人の目を盗んでこっそり脱走するのが唯一の楽しみだ。

そっと襖をあけて目の前に広がる庭を見る。
僕と彩都の寝室は離れだったから本家のほうに行く勇気はなくいつも彩都の部屋に忍び込むのが楽しみであった。
何もない質素な部屋だけど本はたくさんありいつも美しい花が添えられていた。

今日はいつもと違った。
机の上に少し古いノートを見つけた。

手に取って本を開く。
またいつものように難しい本のひとつと思っていたから躊躇なく開いた。
中をみてるとそれは日記だった。

彩都のものであろう。
最初は英語で書かれておりさっぱり内容がわからなかったが、途中から少しずつ日本語になっていた。
しかも文字があまりにもぎこちない様子から幼少期に書かれたものであると思う。



ぱらぱらとページをめくり日本語が多くなったページに目を通す。


○月△日



うつくしいにわ
きれいろうか
きかいひと

ふしぎ
きもちわるい
いきている?いない
ヒト?No.
しんでいる



これは…
彩都が養子に来たのは3歳の時であるからおそらく6歳くらいだろう。
このころはまだ彩都と会ってはいないからまったく知らなかった。
こんなことを思っていたなんて。


ぱらぱらとページをめくると見覚えのある文字がでてきた。

僕の名前だった。
彰人と数回書いており少しかわいいと思った。

「兄さん」

「あ…、彩都」

日記を読むのに夢中になっていたからか彩都が部屋に入ってきたことに気付かなかった。

「また読書ですか、彰人兄さん」

穏やかな顔をして僕に近づいてきた。
僕はあわてて日記を隠して彩都に近づいた。

「彩都、仕事休憩中か?」

「いえ、ちょっと書類を忘れたので…。兄さん具合はどうですか?」

「あぁ、ずいぶん楽なんだ。彩都、今なら黒白の世界も色づきそうだよ。」

彩都はスッと僕の頬に手を添え目の下を指でなぞった。

「にいさん、兄さん。どうですか。僕はどういう色をしていますか?」

いつもだ。
彩都は僕の目に映る世界を気にする。
どういう色かを聞く。

自分のことを僕に問う。
僕の中の自分の存在を確かめる。

そうか、彩都は心のよりどころがみつからないのかもしれない。

そう思うと胸がしめつけられて思わず彩都に抱き着く。

「兄さん?」

「僕には彩都が輝いて見えるよ。誰よりも」

「…はい」

「でも、少しくすんでいるのはなぜだ?彩都、お前は何を…」

言い終わるまでに彩都に抱きすくめられてしまった。
痛い、いつもより強い力で抱きしめられて戸惑った。

「兄さん、壊れてしまいそうなほど華奢で柔らかいですね…」

いつもは肩にまわされている手が腰のほうに回されていてグッと引き寄せられているからかなんだかむず痒い。

「にいさん、お願いですから変わらないで。離れないで…。僕以外頼らないで…。僕が護るから」

「…わかった。彩都。お前はひとりじゃない。僕がいるよ。大丈夫心配しないで」

そう言うと顔をすりつけてきて甘えるようなしぐさをする。

「…時間です。にいさん、仕事に戻ります」

なごり惜しそうにスッと離れて僕にそっと上着を着せて本家のほうへ去っていった。


腰に残る感覚が甘くそして悲しいものであることに目をそむけ、気付かないように蓋をした。
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