novel 4

□抱夏−ダキナツ−(R‐18)
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「それとも、俺以外の男を試してみたくてあの男に着いて行こうとしたっていうなら、……許さないよ」
「そんな…あれは、道を聞かれ…だけで、…っ…ぅ」
気丈に俺を見返していた彼女の瞳からいきなり大粒の涙が零れ落ち、彼女は涙を拭うことなく俺の胸に握り締めた両の拳を何度も当てる。
「お前が、言ったから…っだから、なのに…」
大きな瞳から次々と溢れる涙に、心当たりがまるで無くとも罪悪感が募ってくる。
俺は胸を叩く拳を受け止めて彼女の目尻に口付けると瞳を濡らす涙をそっと吸い取る。

「−−−−ゴメン、言い過ぎた」
結局のところ、俺はどこまでいっても彼女に弱いのだと諦念して、すっかりしおらしくなった彼女の身体を優しく抱き締める。
胸の中にあっても泣き止むことのない彼女を宥めるように艶やかな髪を梳く。
「−−お前が…似合うって、……だから、お前はこういう格好が好きなんだって思って」
次第に落ち着きを取り戻す彼女が胸の中で呟いた言葉に、夏の初めに交わした会話をようやく思い出す。
夏の暑さを見せ始めた頃に妹に着せられたと言ってはにかんだ彼女が可愛くて、手放しで褒めそやしたのは、確かに俺だ。

思い返せば彼女の服装が変わったのはその日からか…。

自らの愚かさに傷付けた彼女の涙が胸を濡らし、後悔に細い身体が折れてしまうほど腕の力を籠める。
「ゴメン、ごめんね美咲」
身じろぎすらできないほど拘束した彼女の唇に自らの唇を重ねる。
「…っふ、ぅ」
眉を寄せた彼女の苦しげな声に少しだけ拘束を緩めてその顔を覗き込む。
覗き込んだ彼女は瞳に涙を湛えたまま不安そうな表情で俺を見つめ返す。
「−−もう…、怒って…ない?」
おずおずと問われた言葉にゆっくりと首を振ってもう一度口付ける。
「美咲こそ、俺の事……嫌いになった?」
唇を食む俺に彼女は腕を巻き付けてゆるゆると頭を振り、甘い唇から吐息を漏らして静かに瞼を閉じた。
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