novel 4

□dummy blue(R‐18)
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学校に近付くにつれ、私達を取り囲む空気が騒がしくなる。
だがそれも仕方のないことだろう。
長く休んでいた私が碓氷と手を繋いで登校したのだ。騒ぐなと言うのが無理だろう。
その上碓氷は私達の周りに十分人が集まったのを確認すると繋いだ手を離して、代わりに私の腰を抱いたのだ。
「−−っ」
息を呑み碓氷を見上げると、碓氷はわざとらしい程の笑顔で私に告げる。
「病み上がりの彼女を心配するのは、恋人の務めでしょ?」
周りに聞こえるように“恋人”という単語を口にした碓氷に、何も言うことが出来ずに私は目を逸らした。



「本当に、もう大丈夫なん?」
いかにも心配で仕方なかったと語る表情にチクリと胸が痛む。
だけど本当のことなど言える筈もなく、曖昧に頷くと、更に心配を募らせた表情で私の手をとる。
「ッ深谷…」
「美咲ちゃん…、本当に大丈夫…?……それに、拓海と付き合ってるって…本当…?」
「っ……」
ギュッと握られた手よりも、今まで見たこともない真剣な表情に言葉を詰まらせていると、不機嫌な声と共にその手が奪い取られる。
「本当だよ。」
「碓…っ」
「拓海…!」
見下ろす瞳は冷ややかで、強く握られた手の痛み以上に心臓が締め付けられる。

「−−俺の美咲に、触らないでくれる?」
ざわつく教室が一瞬で静まり返るほど怒気を孕(ハラ)ませた声に、締め付けられた心臓が大きく脈打つ。
「…たく、海…、これは……」
「これは?」
何か言わなければと口を開いても、言葉は出ずにそのまま唇が震えてしまう。
碓氷は私のそんな様子にため息を吐くと、必要以上に優しい笑顔を浮かべてそっと立ち上がらせる。
「気分が悪いみたいだから、外の空気でも吸いに行こうか?」
有無を言わさない空気に握ったままの手を引かれ、歩きかけた私の背後から深谷が慌てて声を上げる。
「拓海、まだ話が…」
「俺にはないね」
私は深谷を見ることもなく言い捨てた碓氷の背中に、言いようのない気持ちで付き従った。
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