novel 4

□Troublemaker
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あまりに真面目な彼女の台詞に新たな疑問が俺の口を開かせる。
「変質者なんでしょ?気を遣うことなんてないと思うけど」
俺が言うと彼女は困ったように眉を寄せる。
「そこなんだ。そもそも、本当に変質者なのか?」
「何言ってるの。現に露出させてるんだから、変質者でいいと思うよ」
「しかし、変質者とは自分のモノを見せて喜ぶ輩のことだろう?」
確かに、その定義なら先程から硬直したままの男が喜んでいるようには見えない。
というか、何故この男は逃げないんだろう。

理解の範疇を超える状況に彼女を見つめると彼女は言いにくそうにしながらも口を開く。
「あんな貧弱なモノを、男として衆目に晒したいと思うだろうか」
「あー…。でも今はアレだけど、勃たせたらそれなりなんじゃない?」
論じたくもない話を終わらせようと彼女に答えると、彼女はふるふると首を振る。
「それが…その状態でも、平時のお前よりも……不自由だったんだ…。だから、もしかしたら治療?をしているのではないかと思って」
「治療!?」
予想外の言葉に驚く俺に彼女は頷いて見解を述べる。
「外気に触れさせるといいとか、日光にあてるといいとか、何かあるのかもしれないと思って…」

…そんな話、聞いたこともないけど。

「私は男ではないから理解出来ないが、男というものは自分の大きさにかなり拘(コダワ)るものなのだろう?だとしたら、治療に専念出来るように私達が配慮した方がいいと思うのだが…」
「治療、じゃないと思うよ?」
「まさか…。じゃあ、本当に変質者?だってそんな、人に見せられるようなモノじゃ…」
無自覚故の残酷さに気付かない彼女に、目の前の男が憐れに思えてきた。
きっと驚くとでも思っていたんだろうけど、まじまじと観察されて、その上同情までされるなんて…。
鮎沢に見苦しいモノを見せたのは許せないけど、「気の毒…」
それ以外に言いようがなく呟くと、納得のいっていない彼女がとどめとも言える言葉を漏らす。
「しかし…アレでちゃんと用を成すのか?」
この言葉に固まっていた男の肩がぴくりと動き、ふるふると震える指先をぎゅっと拳に握り込む。

−−キレるかな?

しかし男はそのまま踵を返すと走り去って行った。



男の走り去る後ろ姿を眺めていた彼女が思い出したように声を上げる。
「しまった。変質者なら、取り押さえて警察に突き出そうと思っていたのに」
「…十分だと思うよ?」
悔しそうな彼女の声に俺が執り成すと、彼女は不満そうに呟く。
「十分?私は何もしてないぞ」
本当に無自覚な彼女は口を尖らせて見せると、自らに言い聞かせるように
ひとりごちる。

「しかしあの変質者め…、今度見かけたらその時は必ず捕まえてやる」

俺はそんな彼女を横目に、今夜は彼女の無防備で無自覚がどれ程危険なのかを教え込もうと心に決めた。



end
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