novel 2

□Divina Commedia(R‐18)
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「それじゃあ、明日からは学校に来れるんだな?」
目の前で見えない尻尾を振って笑顔を浮かべる男にそう尋ねると、男は感極まったように声を上げ、私を抱き締める。
「うん。心配かけてゴメンね。今日はありがとう」
「ばっ…ばかっ!いきなり何するんだ、深谷!!」
私が慌ててもがくと、深谷ははっとしたように腕を離し、申し訳なさそうに項垂れる。
「ごめん……、あんまり嬉しかったもんやから」

−−相手は病み上がりだ…。
それに、幼馴染という気安さもある。
「まあいい…、それより、明日また学校でな…」
私がそう言うと、深谷は頷き「また明日」と笑顔で答えた。



−−−しかし……、抱き締められて、驚きはするが私が感じるのはそこまでで、あいつに抱き締められるのとはまるで違う……。
あいつに抱き締められると、もっとこう…、身体全部が心臓にでもなったみたいに、ドキドキして、そう、こうして思い返しただけで、顔が熱くなる。
でも、深谷にはそれがない…。
結局、私は深谷を男として見ていないという事なんだろう。

「“ヨウ君”……なんだな…」
深谷から向けられる気持ちを知りながら、残酷な結論を口にして、駅へ向かうために歩き出した私は、目の前によく見知った男を発見し一瞬にして凍りつく。
それはあいつがごくたまに見せる、鋭く暗い瞳で私を見据えていたから…。

凍りついた私の許に、口元にだけ笑顔を浮かべた碓氷がゆっくりと近付く。
碓氷は固まって動けないでいる私の腰に腕を回すと、自分の方へと引き寄せ、囁きかける。
「顔が赤いよ、鮎沢……。あんな、玄関先で抱き合うなんて、俺が見てないとでも思って油断した?」
「なっ!」
「学校以外では“ヨウ君”って呼んでるの?…詳しく聞きたいんだけど、付き合ってくれるよね?」
私は暗い瞳のまま笑顔を見せる碓氷に、従うほかなかった。



−−どう言えば、聞き入れてくれるのか…。
やましいことは何もない。
ただ、一週間ほど学校を休んだ深谷を、クラスの代表として訪ねただけだ。
きっと碓氷もそう聞いて、私を迎えに来たんだろう。
だけど……誤解したに違いない。
私に背を向けて歩く碓氷の背中から、怒りとも憤りともつかない空気が伝わってくる。
とにかく、誤解だけは解かなくては……。
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