novel 2

□Spray
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最近、彼女が忙しそうなのは、夏休みを目前に控え、なんとなくザワついた校内の雰囲気に因るものだろう。
男子の多い星華では、夏の勢いに任せて血気はやる輩がいないとは限らない。

それは尤もな心配だと思うし、実際に男の俺から見ても、“少しは落ち着けよ…”と声をかけたくなる程、浮かれている奴らも多い。

生徒会長である彼女が、夏休みを前にそういった男子達に釘を刺しておくのは必要な事なのだと、頭では理解しているが、蔑ろにされている俺としては、面白くない事この上ない。
だから男子と追いかけっこをして息を弾ませる彼女を捕まえて、人目につかない所に連れて来た俺を、許してほしい。

「−−何するんだよ、碓氷」
追いかけっこの名残で頬をピンク色に染めた彼女が俺を睨む。
「何って…自分の彼女が他の男ばっかり追いかけてるから、ヤキモチ?」
廊下の隅で彼女の身体を隠すように逃げ道を塞ぐと、汗をかいた彼女の耳元に唇を近付ける。
「ばっ、お前っ…近い!」
俺の胸に手を遣って、押し剥がそうとする彼女に構わずに、口付けて強く吸う。
彼女の首筋についた俺の痕に、少しだけ落ち着いた俺とは反対に、彼女はピンクだった頬をみるみる濃く染め変えて慌てて首筋を押さえる。
「お前っ……何考えてるんだよ!!」
俺は抗議する彼女の唇に指を当てると、そのままスゥ…となぞらせる。
「鮎沢…、大きな声出すと、人が来ちゃうかもよ?」
「−−っ!」
そう、ここは死角になっているとは言え、学校の廊下である事には代わりない。
いつ、誰が通り掛かっても、おかしくない場所なのだ。

彼女の口を塞ぐ事に成功した俺は、真っ赤な顔で俺を睨みつける可愛い彼女に本題を切り出す。
「ねえ鮎沢?会長として生徒に注意をするのはわかるけど、少しは俺の事も構って?一泊旅行……とかは無理だろうから、近場で我慢するとして、二人で計画立てよう…二人で過ごす、初めての夏休みなんだから、……ね?」
甘えた眼差しを向けると、彼女は困ったような顔をして視線を彷徨わせる。
「おっ…お前まで、浮かれた事言いやがって…」
「夏だもん、少しくらい浮かれても、いいんじゃない?」
「−−−計画なんて、立てなくていい…」
赤くなったままの彼女は、チラリと俺を窺うように見上げると、ぶっきらぼうに呟く。
「どう言う事?」
「お前と二人で出掛けるなら、きっとどこだって楽しいから、だから…」
拗ねたようにそう告げる彼女に、俺はここが学校だと言う事も忘れ、愛おしさに任せて深く口付けた。



end

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