novel 2

□CHECK UP(R‐18)
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売り言葉に買い言葉…。
本気で言った訳じゃない、ただ少し困らせたかっただけだ。
それなのに……−−−。

「それ、本気で言ってるの?」
憮然とした表情で私に問い掛ける碓氷の不機嫌も顕わな声に、私は自分が失言したのだと気付く。
「もちろんだ」
だけど今更後には引けなくて、私は心にもない言葉で不機嫌な碓氷に頷いてみせる。
碓氷は端整な顔を顰めると大きなため息をつく。
「鮎沢が本気でそんな風に考えてるなら、俺が何を言ってもムダだよね」
「……そうだな」
初めて聞く冷たい碓氷の声に、胸が竦む。
本気ではないと、心の底ではもう一人の私が否定する。
心の底に蓋をして同意した私に、いっそう冷たくなった碓氷の声が遠く聞こえる。
「そう…、だったらもう何も言わない。鮎沢は鮎沢の好きにするといい」
固い声でそう言って背を向けた碓氷を、私は自分の愚かさを噛み締めながら見送った。

ざわざわと胸の奥がざわめくのは、初めて目の当たりにした碓氷の態度によるものだろう。
初めて聞いた、冷たい声。
初めて見た、拒絶の瞳。
私に語りかける声はいつも穏やかで、
私に向けられる眼差しはいつも優しくて、
だから、甘えてた。
全て許されると、心のどこかで思っていた。

一人帰り着いた家までの道のりは、私の傲慢さを自覚させるには十分な時間をもち、私の心を悔恨の念が占める。
碓氷が去り際に見せた、憤りを滲ませた表情を思いだし、胸がずくりと苦しくなる。

それでも、母や紗奈に心配をかける訳にはいかない。

私は平静を心掛けて門扉をくぐった。

−−−もしかしたら碓氷から連絡があるかも知れない。
そう思うと携帯を片時も離す事が出来ずに、とうに寝る時間を過ぎてもなお、コールを待ち続けている。

−−眠れない。

じわりと広がる胸のざわめきが、私から平安を奪う。
だけど自分から碓氷に連絡をするのは、怖い。
あの冷たい声を聞くのは、嫌だ。
自分が悪いと自覚しているからこそ、ぐずぐずと思い悩むだけで無為に時間が過ぎていく。

どうする事も出来ない私はチラリと携帯に目をやると無理に瞳を閉じた。
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