novel 2

□リリィ
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「ごちそうさまでした」
俺の前で両手を揃える彼女のウキウキとした声に、つられて俺も両手を揃える。
「ごちそうさまでした。美味しかった?美咲ちゃん」
向かい合って座ったまま問い掛けると、彼女はニコニコと頷く。
「今まで碓氷が作って美味しくなかったものなんてないぞ」
冷静に考えると男に対しての褒め言葉とは思えない台詞も、愛しい彼女が言えばそれは俺にとってこの上もない褒め言葉となる。

「よかった…。でもまあ、当たり前か、特別な調味料を使ってるからね」
「特別な調味料?」
俺の言葉に料理が得意とは言えない彼女の瞳がキラリと光る。
「なんだよそれ、そんなのがあるなら私にも教えろよ」
「教えてもいいけど、美咲ちゃんに使いこなせるかなぁ?」
わざと意地悪く言う俺に、可愛い彼女が頬を膨らませる。
「使いこなせるかどうか、聞かなきゃ解らないだろ」
上目遣いに睨む彼女の可愛いらしさに、頬が緩む。
「じゃあ教えてあげるけど、他の人には内緒だよ?」

彼女は声をひそめる俺に、嬉しそうに頷き顔を近付ける。
二人きりなんだから、わざわざ内緒話にしなくても誰も聞いていないのに、素直な彼女は髪を耳にかけ、今か今かと俺の言葉を待つ。

「あのね、調味料って言うのは、俺の美咲ちゃんへの愛」
テーブルに身を乗り出した彼女は、一瞬で真っ赤になって恨めしそうな目を俺に向ける。
「お前、からかったな…私は真剣に聞いてたのに」
「からかってなんかないよ“料理は愛情”ってよく言うでしょ?美味しく食べてくれる顔が見たいから、頑張って作ってるんだよ」
プイ…と横を向いた彼女は、口を尖らせたまま、独り言のように
「なんだよ…それで上手になるなら、とっくに…」
そこまで言うと、彼女はしまった、とでも言うような顔をして口を噤む。
そして、俺がその台詞を聞いていたかどうかを確かめるように、横目でチラリと俺を窺い見る。

−−どうしようか…。
可愛い彼女の為に、聞こえなかった振りでもしようか……、それとも…−−−
「聞こえちゃった。『それで上手になるなら、とっくに“料理名人”だ』って」
一瞬だけ迷った俺が彼女の耳元に口を寄せて囁くと、もはや指先まで赤く染まった彼女の頬に軽く口付ける。
そうして、彼女が俺の言葉を否定する前に、今度はその唇に深く口付けた。



end

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