novel 2

□HEAVEN(R‐18)
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あの日、どうしてあんなに勇気を出す事ができたんだろう。
事前に覚悟を決めていた訳でもないのに、何故あんな事ができたのか…。

痛みと引き換えに得たものは、見たこともないような満ち足りた碓氷の笑顔。
ただ一度だけ重ねた記憶はあまりに鮮明で、その為に私は次へと進む事ができない。

『鮎沢の気持ちを無視したくない』
そう言って我慢を重ねる碓氷に、申し訳なさを覚えると共に確かにホッとしている自分がいるのも事実で、私は自分の不甲斐なさと狡さを目の当たりにする。

キスは、気持ちいい…。
大きな手で頬を撫でられるのも、
逞しい胸に抱き締められるのも、
碓氷から与えられるもの全て、心地好い。
そのまま身を委ねればいいと、身体を預けて力を抜けばいいと、私の中で誰かが囁く。
だけど、中心に硬いものが当たる感触に、囁きは霧散して代わりに痛みと羞恥が蘇る。

『ずっと大事にするから…今日だけ我慢して…』
熱く囁いたその台詞通りに、あいつは私をまるで宝物のように大切に扱う。
それが当然であるかのように自分を押し殺して、碓氷は私を待っていてくれる。

だから、私から進まなければいけないんだ……。

その為にはきっと、今日という日が一番相応しい筈だから。

私は予約しておいたケーキを受け取ると、そのまま碓氷の部屋へと足を向けた。

碓氷の部屋の前で小さく深呼吸をした私がインターホンを鳴らすと、碓氷は待ち兼ねたとでも言うように自らドアを開け、私を迎え入れる。

にこやかな笑顔で招き入れられたリビングには、既に幾種類もの料理が並べられ、そこにケーキが華を添える。
「うん、やっぱりケーキがあると誕生日らしいな」
碓氷は満足そうに呟く私に微笑むと後ろから抱き締め、
「ありがとう、鮎沢。誰かに祝って貰う事がこんなにも嬉しいなんて、思ってもみなかった…」
耳元で囁かれたその台詞は、私の覚悟を後押しするには、充分過ぎるものだった。

碓氷の手に私の手を重ね、そのまま胸の辺りまで下ろす。
「鮎沢…」
「プ、プレゼントがあるんだが、……その、大したものじゃないんだが、貰ってくれるか…?」
声が、震える。
「でも……」
「恥ずかしいし、……怖いけど、それでも、碓氷と…」
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