novel

□Merry X'mas I Love You(R‐18)
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「いってらっしゃいませ、ご主人様」
閉店と共に最後のご主人様を送り出す。
今年のクリスマスイブも無事終わり、スタッフのみんなの顔に安堵の笑みが浮かぶ。


「お疲れ様」

さつきさんが手に持ったシャンパンを高く掲げ、ささやかなクリスマスパーティーが始まった。

残った食材をアレンジしたオードブルと、ケーキの切れ端だけの、本当にささやかなパーティーに、みんなどころか嬉しそうな笑みを浮かべ、互いに今日の労をねぎらう。

「そう言えば、今年はサンタの衣装じゃなかったんですね」
私は今日一日感じていながらも、忙しさのために聞けなかった疑問を口にする。
「そうなの、今年は“スネグーラチカ”なの。可愛いでしょう。ロシア語で、雪娘とかそういう意味でね、サンタの孫娘なんだけど、サンタのお供的な役割の女の子の衣装なのよ」
「ロシア…ですか、知りませんでした。」
「私もよ」
うふふと笑いながらさつきさんは私の隣にいる碓氷に目配せをし、
「さあ、高校生はもう帰りなさい。明日もきっと忙しくなるわ。二人とも、よろしくね」
「えっ?でも、まだ…−」
帰るには早いと言いかけた私を、さつきさんは萌え花を咲かせながらたしなめる。
「特別な日は、特別な人と過ごすべきよ。ありがとう二人とも、私に付き合ってくれて。お休みなさい」
にっこりと笑って萌え花を乱れ咲かすさつきさんに、私達は店の外に押し出されてしまった。

『特別な日は、特別な人と……』

さつきさんのその言葉に、私達はお互いに顔を見合わせて微笑う。
「じゃあ、帰ろうか」
私は微笑みと共に差し出された手を取った……

いつもよりゆっくりと歩く駅へと向かう道は、色とりどりのイルミネーションに溢れ、いつもは素直になれない私を、今日だけは素直にさせてくれる。
「−−−今日は、帰らない」
立ち止まり、繋いだ手に力を込めて精一杯の勇気を振り絞って碓氷に伝える。
息苦しいほど高鳴る鼓動が私を朱に染めていく。
「…いいの?」
「特別な日、だからな…」
私の返事に、碓氷の頬も僅かに朱くなった気がした。
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