novel

□21st Cherry Boy
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お泊り、この強引に約束させられたイベントに、目の前の碓氷は嬉しさを隠し切れない、といった様子で−−−そもそも始めから隠す気もないのか−−−次から次に出される私からの障害、つまり宿題やら予習・復習、果てはメイド・ラテの次のイベントの特訓までをも片付けていく。

「お前、なんでこんな時だけ、やる気を出すんだ……」
私としてはもっともな疑問を口にすると、笑顔のもとに眩暈のする答えが返ってくる。
「なんでって、それは美咲ちゃんと、イケナイことする時間を一秒でも多く作る為に決まってるでしょ?」
あまりにも堂々としたセクハラ発言に、くらくらする頭を抱えてしまう。

碓氷はそんな私の隙を付き、ソファに座る私の膝に頭を乗せ、そのまま私のウエストに手を廻す。
「これで、明日の朝まで美咲ちゃんに思いっ切り甘えられるよね」
幸せ、と臆面もなく甘える碓氷の手は段々と妖しいものになっていき、器用にも服の上からブラジャーのホックを外す。

「おまっ何すんだよっ!」
「何って……イケナイこと?」
語尾にハートマークでも付けそうな口調で私の怒りをサラリと流す。
いくらなんでも、まだ土曜の昼過ぎといった時間に、私が応じられる筈もなく、
「こんな時間に、アホな事を考えるな」
とクギを刺すと、碓氷なりの持論、というものを滔々と聞かされる。

恋人同士が二人きりなら、しない方がおかしい。だとか、
愛の前に太陽の高さは、なんの障害にもならない。だとか、
むしろ明るい所でも、俺は萌える。だとか、
なんなら明るい方が、より萌える。だとか、
聞いているだけで頭の痛くなる変態発言を並べ立てられ、私の眉間のシワはより深いものになっていく。

そんな私の表情に気付いた碓氷が、芝居っ気たっぷりに、
「ああ、そんな顔をしないで…美咲ちゃんを困らせたい訳じゃないから、ただ、俺のささやかな願いを口にしただけだから、気にしないで…」
まるで気にしろと言わんばかりの台詞に、ひっかかりを覚えるが、気にしないで、と本人が言っている以上、気にする必要はないと判断して、
「わかった」
と、その言葉をそのまま受け取ると、碓氷はニヤリと笑い、
「今は、美咲ちゃんの為に我慢するから、夜はたっぷり“ご褒美”ちょうだいね」
言いながら私の頬をペロリ、と舐め上げる。

「−−ッ」
舐められた頬を押さえ、碓氷を突き飛ばすようにして身体を離す。
「お前は…っセクハラしかできないのか…」
真っ赤になってしまった事が恥ずかしくて、憎まれ口を叩く。

碓氷のセクハラはいつもの事なのに、慣れる事のできない自分が悔しい。
ドキドキとうるさいくらいに主張する心臓も、ムカつく。−−−いっそ止まってしまえば、碓氷だって慌てて、セクハラどころじゃなくなるんじゃないか−−−もちろん冗談だが、半ば以上本気でそんな物騒な事を考える。

「くそっどうして、こんなにも−−」
腹立ち紛れに呟いた独り言も、碓氷の耳に届き、したり顔で浮かべる笑みも憎らしい。
「−−碓氷のアホ」
ひと睨みして、いつものようについ手を出してしまうが、やはりいつものように易々と受け止められ、拳にキスを落とされる。
「女の子が乱暴な言葉、使っちゃダメだよ。美咲ちゃんから“ご褒美”じゃなくて、俺から“お仕置き”になっちゃうよ?」
お仕置き、と聞いて条件反射のように私の口から短い悲鳴が洩れる。
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