novel

□羽虫のように
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ごくっと生唾を飲む音が聞こえる。
相変わらずTV画面には絡み合う男女が映し出されている。
本当にこんな事を?と思うが、目が離せず食い入るように画面を凝視する。
「なんと言うか…コオロギの産卵のようですね」
冷静なしず子の声にはっと我に返ると自分と同じように画面に釘付けとなっていたさくらと目があった。
「コオロギ…とは思えないが」
「そぉだよ。素敵じゃない。愛し合う二人が愛を確かめてるんだよ。ねぇ美咲」
同意を求められ困る私にしず子が助け舟を出す。
「さくらさん、美咲さんはそのように思っていないようですよ」
本当?と口を尖らせるさくらに、
「ああ、信じられない、としか思えない」
と本心を告げる。

そもそも何故こんな事に、と思う。
『今日は家に誰もいなくて怖い』と言うさくらの家にしず子と二人で泊まりに来たら、これを見せられた。
一人で見るのは怖いから、と。
『あっでも美咲怒るかな?』
おずおずと訊ねるさくらの頭をなでて、
『今の私は生徒会長ではなく友人としてここにいるんだし、それに女子がそういったものを見るのは自分の身を守ることにもなると思うから皆で見よう』
と自分で言ったことを思い出してため息をついた。

『くぅが君に求められた時、何も知らなくて嫌われたくないから』
そんな風に言うさくらにしず子は
『さくらさん、そんなことで嫌うような男は止めなさい』って怒っていたっけ。
しかし、本当にあんなことをするのか?
今見たばかりなのに信じられない。
いつか私も碓氷と……?
真っ赤になって頭をブンブンと振る私を見てしず子が
「まぁ、私達には具体的な相手がいませんからね。さくらさんのようには見れないでしょう」
優しいな。しず子は…
「えーっだって美咲はうす…」
「しっ!!」
何かを言いかけたさくらをしず子が制す。
「遅くなってしまいましたね。今日はもう寝ましょう」
その声に従って私達は眠りについた。
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