novel

□妖月
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「愛してる」
口付けとともに囁かれる言葉。
それは本心なのだろうと思う。
だけど私はその言葉を受け入れることが出来ない。
私は碓氷に買われて、飼われている。



あの日、バイト帰りに駅へと向かう道で急に呼び止められた。
いったい誰が、と思い振り返るとそれは父だった。
数年ぶりに見る父親はひどく申し訳なさそうな顔で、
『すまなかった』と詫びた。
正直、混乱し動揺もしたがそれでも父であることに代わりはないし、
今、目の前で頭を垂れ許しを請う人間に冷たくすることも出来なかった。
そんな私に父は一緒に来てくれと言葉を続けた。
いったい何故?まさか、“新しい家族…?”
そんな私の考えは最悪な形で裏切られた。

そこはごく普通のマンションの一室だった。
しかし中に通され目にしたものは、一目でその筋と分かる人間の事務所だった。
驚き父を見る私とは眼も合わせずに、父は目の前の男に私を差し出した。
『娘を連れてきました』と。
心臓がドクンと脈打ったのをはっきりと覚えている。
急に目の前が暗くなった気がした。
私は父に売られたのだ、と理解した。
それから父は、私を一瞥することもなく男達に礼を言い去って言った。

『ひどい親父だねぇ』
『自分の借金チャラにするために娘を売るなんてな』
残された私に、嘲笑と共に告げられた。
そのうちに、私を値踏みするように見ていた男が奥に座る男に声をかけた。
『兄貴、こいつの味見、俺がしてもイイですか?』と。
それを聞いた男は、
『処女だったら突っ込むなよ』と下卑た笑いを浮かべた。

“……味見……突っ込む……処女……?”
はじめは何を言っているのか解らなかった。
『大人しいな』
不意にタバコ臭い息が顔にかかり胸を揉まれた。
その瞬間、男達の言っていた意味が解り、私は抵抗した。
『やっ、やめろっ!私に触るな!!』
気持ち悪い。吐き気がする。誰か助けて…
自然と碓氷の顔が浮かんだ。
何人もの男に引き倒され押さえつけられた。
私を“味見”しようとしている男は私の上に跨り、
『口の悪いお嬢ちゃんだな』
言いながらブラウスを引き裂いた。
『っやめっ、イヤぁっ』
身を捩って逃げようとしても、逃げられない。
“こんなのは嫌だ。誰か助けて……”
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