novel 4

□錯乱Baby
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秋の肌寒さにそろそろ屋上でこうして居るのも終わりか…などと感慨にふける俺に、わざとらしいため息が聞かせられる。
気にしろといわんばかりに吐かれるため息がなんとも鬱陶しい。
「−−−−なんかあったのか」
渋々、本当に渋々と聞いてやるといかにも話しづらそうな体を調えて友が口を開く。
「彼女がさ、俺のこと誤解してるんだよね…」
ホラ見ろ。
聞いたってロクなことがない。
どうせこの男は“とびきり可愛い”彼女の自慢を始める気なのだ。
しかし…誤解って何だ?
完全に無視するには気になり過ぎるワードに男はまんまと引っ掛けられてしまったのだ。

「誤解って?」
多少の好奇心を否むことは出来ないが、俺が仕方なく聞いてやると碓氷は勿体振ったため息を吐く。
…いいから早く言えよ。
聞いて欲しかったんだろ?
などと、面と向かっては口に出せない思いを飲み込んで喋り出すのを待っていると、ようやくその口が開かれる。
「俺の事、慣れてるって思ってるみたいなんだ」
−−何が?
どうもコイツの話は主語が抜ける傾向にある。
友人としてそこは注意してやるべきだろうか…。
「なあ、慣れてるって、何が?」
いやいや。
俺がこうして聞けば済む事だ。
注意する程でもないだろう。
ふっ。俺の寛容さに感謝しろよ。
懐の広い俺が促してやると、碓氷は遠くを見つめたままでおよそ澄んだ青空とは無縁の言葉を何でもないように口にする。
「SEX」
「えっ!?」
「だから、セックス」
若干睨みつけながら言われたその言葉、チェリーな俺には刺激が強すぎるぜ。

じゃなくて、いきなり何言い出すんだこの男。
コイツの辞書にオブラートに包むって言葉はないのか?
信じられない生き物を見る思いで見つめる俺に構わず、碓氷は言葉を続ける。
「確かに、俺は彼女が初めてじやなかったけど、自分からしたいって思ったのは彼女が初めてなのに」
おい、なんだその羨ましい…じゃない、ふしだらな話は。
自慢か?自慢なのか?
自分からしたがらなくても相手をして貰えるなんて、どこの桃源郷の話だ。
「ふーん…」
だがここでオタオタしてはいけない。
何たって俺は、器のデカイ男なのだ。
「相手を悦ばそうと思ったのだって彼女が初めてだから、試行錯誤しながら頑張ってるのに」
「そうなのか…」
そうか。コイツでも、頑張るって事があるのか…。
「で、試行錯誤って?」
一瞬ほだされてしみじみとしてしまったが、友の悩みを取り除くべく、−−−誓って“試行錯誤”に興味を覚えた訳ではないが−−−詳しく話を聞こうと水を向けた俺に、想像の上を行く悩みが打ち明けられる。
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