novel 4

□mescaline(R‐18)
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「あっ…」
目当ての書類が見つからずにゴソゴソと鞄を探っていた私は、あることを思い出して小さな声を発する。
ここに来る道すがら二人で寄ったコンビニでコピーを取った後、原稿をそのままにして来てしまったのだ。
「しまったな…」
急いで取りに戻らなければ…。
呟いて立ち上がりかけた私に向けて、静かに立ち上がった碓氷が柔らかな笑顔を見せる。
「俺が行くよ。買い忘れた物もあるし、ちょうどよかった」
もちろん買い忘れなど私に負担を感じさせない為の口実である事はわかっているが、私は素直にその言葉に甘える事にした…。



のが、5分程前。
好きにしててねと言われ、手持ち無沙汰な私はパソコンを起動したのだが、ディスクドライブにディスクが入れっぱなしになっている事に気付いて好奇心がムクムクと沸き起こる。
「まったく…ディスクを入れたまま電源を落とすなんて、あいつも結構抜けてるな」
独り言を呟いて好奇心のままにディスクを再生した私は、映し出された画面を目にして言葉を無くす。

−−−こんな…

信じられない思いで見る画面から目を逸らせずに固唾を飲む。

だけど……

信じたくはないけれど、碓氷のパソコンに入っていたのだから、やはり碓氷がこれを見ていたのだろう……。

どれくらいの時間動けずにいたのだろうか。
不意に顔の横から伸びた腕がパソコンを強制終了させる。
唐突に黒くなった画面に後ろを振り返ると、固い表情の碓氷が原稿を差し出す。
「…あったよ」
それだけ言った碓氷は固い表情のままで私の隣に腰を降ろす。
気のせいではない開いた距離に、しかし何を言ったらいいのか解らずに押し黙る。
何か…碓氷から何か言ってくれないだろうかと隣に目を遣るも、碓氷は私の方を見ようともせず相変わらずの険しい表情で大きな息を吐く。

「−−−−−しても………いいぞ…」
堪えられない沈黙に唇を震わせた私にようやく碓氷が視線を向ける。
ともすれば涙が零れてしまいそうな気持ちを奮い立たせて、震えて上手く動かない唇を無理矢理に動かす。
「…もちろん、お前以外の人間とは絶対に嫌だけど、それ以外なら………お前がしたいなら、…しても…いい……」
一言も発さずに私を見つめる視線に身体の震えを止めようと手の平を握り締める。
じわりと滲む視界に唇を噛んで目を逸らすと、隣の気配がゆっくりと動いて握り締めた手の平を上から包むように温かい手が置かれる。
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