novel 3

□Passion
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支配欲とか征服欲とか独占欲とか、程度の差こそあれ男なら誰でも持っている感情。
ただ俺の場合、他の奴等より少しそれが強いのかもしれない。
叶うなら彼女を閉じ込めて、誰にも見せないでずっと傍に繋ぎ止めておきたい。

だから、許せない。

俺は頭上から聞こえてくる話し声に苛立ちを膨らませた−−−。



屋上へと続く階段を上っていた俺の足を止めさせたのは、頭上から聞こえてくる男子生徒達の声。
興奮気味に語られる内容に些かウンザリしながらどうしようかと思案にくれる。

−−−構わず上っていけばくだらない話を止めて道を開けるだろう。

そう思って再び進め出した足は思いがけない名前を耳にしてその場に凍りつく。
俺の存在に気付いていない話し声にやり場のない怒りが静かにつもり、俺は仄暗い感情を抑えることができずに拳を握り締めた。

相変わらず俺を苛立たせる会話は止むことなく続き、かといって立ち去ることもできずにただ立ち尽くしていると俺の耳にもうひとつの音が聞こえ、無意識に音のする方へと視線を向けると視線の先には俺の予想通りの人物が時に立ち止まりながら俺の許へと近付いてくる。
足音の主は俺に気付くとその表情を和らげて少しだけ急ぎ足になる。

普段なら嬉しくなるそんな行動も、この現状では俺の仄かに滾る暗い感情を逆なでる。
俺は名を呼ぼうとする彼女に向けて口元で人差し指を立てる。
俺の仕種に怪訝な表情を浮かべながらも素直に従い近付く彼女を安心させるように笑顔を作ると、彼女も幾許かは安心したように俺に微笑みを返す。
俺は笑顔の彼女を抱き寄せ腕の中に捕らえると、唇に当てていた指を滑らせ頭上を指し示し頬を染める彼女に目配せをする。

頭上からの話し声に気付いた彼女はひとしきりその話しに聞き耳をたて、そしていよいよ真っ赤になった顔で俺を睨み付ける。
「すごいよね。なんか、AVみたいだね」
睨み付ける視線を受け流して囁きかけると、彼女は眉を顰めて口を開く。
「AVとかそんなのはわからないが、お前こんな話し聞いて楽しいのか?」
「ん?楽しいよ。ねえ鮎沢、俺もしてみたいんだけど、してもいい?」
彼女が逃げてしまわないように腕の力を強くすると、彼女は少し怯えたような表情で俺を見上げ首を横に振る。
「いいわけないだろ。それより離せ。いい加減話しをやめさせてくる」
聞くに堪えないとでもいうように呟いた彼女は、不意に頭上から聞こえた名に顔色をなくして俺を見つめる瞳を見開かせた。
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