novel 3

□LADY SKELETON(R‐18)
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久しぶりの定時上がり。
相変わらず机の上には書類が山積みで、だけど今日は見ないふりで、ウキウキと弾む心で席を立った。

昼休みに届いた拓海からのメール。

『少しでいいから会いたい』

毎日会えた学生時代とは違い、今では週末にしか会えない。
それなのにお互いに忙しい時期には、その週末でさえも会うことは敵わない。
だから突然の拓海らしくない一方的な文字にも、私は心が躍るのを止めることができなかった。

−−−もう何日、会っていなかったっけ……。
急に寒くなった空を見上げて恋人の顔を脳裏に浮かべる。
夜毎の電話で聞く声に隠しきれない疲れが見えていた。
だけど、“会いたい”とメールが来たのは、仕事にめどがついたか一段落したからだろう。
同じ気持ちだった私はすぐに了承の返信をすると、定時で上がるべく昼食も摂らずに席に戻ったのだった。
(早く青になればいいのに。)
私は一頻(ヒトシキ)り思い返し、いつもより遅く感じる信号に心の中で悪態をついた。



止まっていた人の群れが動きだし、皆足早に目的地へと向かう。
私もその波に乗って駅へと急ぐ。
久しぶりに会う時の濃密な時間を思って染まる頬を冷まそうと、少しだけ顔を上げたその先に会いたかった人物を発見して駆け出した脚が、ピタリと止まる。

見間違う訳がない。
だけど…。
親しげに腕に触れる女性は誰?
どうして、頬を染めて微笑みを浮かべて………。
浮き立っていた気持ちが瞬く間に萎み、心臓がキュウッと締め付けられる。
私も拓海も、ずっと忙しかった。
だから、ずっと会えなかった。
でも……拓海は違ったのかも知れない。
疲れていると感じた声は、私と話す煩わしさの表れだったのかも知れない。
忙しいかったのは、今の女性との時間を優先していたからかも知れない。
次々と浮かぶ疑念に囚われた私は、女性と別れた後もなお微笑みを浮かべる碓氷の後ろ姿を、茫然と見送ることしかできなかった。
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