novel 3

□wednesday(R‐18)
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目の前の光景に俺は言葉を無くす。
さすが俺、と言うべきか、それとも…さすが鮎沢、と言うべきなのか…。

ほんの悪戯心だった。
まさか成功するなんて、夢にも思ってなかった。
だけど目の前の光景は紛いようもなく現実で、俺は天を仰いだ。

頻繁に生徒会室を訪れる叶に“お願い”して催眠術を教えてもらったのは、生徒会業務に勤しむ彼女を待つ間の暇つぶしとしてだった。
あわよくば…と下心が全くなかったとは言わないが、まさか本当にかかるなんて、やっぱりさすがは鮎沢…と言うしかないんだろう…。
俺は尻尾を振った犬のように俺にじゃれつく彼女に、密かにため息をついた。

彼女にかけた催眠術は、『俺に対して素直になる事』
そして彼女は、ソファに座る俺の膝に頭を乗せて、頭を撫でる俺に嬉しそうに目を細める。
「碓氷。……好き」
先程から囁きかけられる言葉は、俺の理性をグラグラと揺らし俺に後悔を抱かせる。

こんなにも可愛らしい彼女が全身で俺を誘ってるのに、俺はそれに気付かない振りで彼女から瞳を逸らす。
(さすがに、こんな状態の彼女に手を出すなんてできないしね…)
自業自得とはいえ、健全な男子高校生としては抗い難い彼女の誘惑を必死で堪えていると、フツフツと彼女に対して怒りのような感情が沸いて来る。
そもそも、彼女がこの半分でも普段から俺に対して素直になってくれていたら、あんな馬鹿な真似はしなかった……と、思う。
おそらく、だが。

俺の思いも知らずに彼女は大きな瞳を潤ませて、じっと俺を見つめる。
「…キス…して……?」
俺のシャツの袖を控え目に引きながら、キスをねだる彼女に、俺は言葉を詰まらせ黙ったまま彼女を見つめる。
「ダメなの…か?」
「いや…ダメじゃないよ。ダメじゃないけど…」
しゅんとなる彼女に慌てて口を開くと、彼女は安心したように目を閉じて唇を尖らせる。
俺は覚悟を決めて触れるだけのキスをすると、すぐに彼女から顔を離す。
「ん…、もっと、……」
触れるだけのキスでは足りないとばかりに深いキスをねだる彼女の甘い声音に、俺はゴクリと喉を鳴らした。

狭いソファに身体を重ねて舌を絡め合わせる。
湿った音と荒い息に、俺の首に回された彼女の腕の力が強くなる。
「碓氷、碓氷…好き…」
切なげに漏れる想いに応えて深くなる口付けが、俺を酩酊させる。
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