novel 4

□囁き
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そっと立ったドアの向こうから聞こえる息遣いに、俺はノブに手を掛けたまま動く事が出来ずにその場に固まる。
小さく漏れてくる声は明らかに艶を帯びて俺の劣情を刺激する。

(美咲…、自分で…?)

俺はゴクリと固唾を飲んでドアに耳を当てる。
「あっ…ぁ……んん、ぁん、っ」
可愛らしい喘ぎ声に心の奥底に押し込めた妄想が顔を出し、肉塊に血が集まる。
「ぁぁ…あぁ……ん、んん……ぁ…」

(痛ッ…。これ以上聞いてたら、ヤバい)

ズボンの中で勃ち上がった欲竿の痛みに僅かに冷静を取り戻した俺は、後ろ髪を引かれる思いでドアから耳を離す。

(美咲に気付かれないうちに、早く)

ようやくノブから手を離した俺の足は、聞こえた声に動きを忘れた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お兄ちゃんを呼びながら昇り詰めた私は、乱れた服をそのままにベッドに身体を投げ出して荒い息を整える。
息が整ったところで重い四肢を動かして乱れた服を直そうとした私の耳に、聞こえる筈のない音が聞こえて、驚いて音のした方へと視線を向けると何度も呼んだ人物が、今まで一度も見た事のない表情で私を見据える。

「あ…お帰り…なさい。お兄ちゃん…」
ドキドキとうるさい鼓動を隠して口を開く私に、お兄ちゃんは怖い顔のまま無言で近づいてくる。
「あの…っ、今日、早かったんだね」
後ろめたさをごまかすように早口になった問い掛けにも、お兄ちゃんは何も答えずに上体を起こした私の耳元に唇を寄せる。
「美咲、今…何をしてた?」
「何って…何も…」
聞いた事のない低い声に指先が冷たくなって、しらを切る唇が小さく震える。
「何も?俺のベッドで、俺を呼びながら、何をしてたのかって聞いてるんだ」
私を問い質す固い声は全てを知っているのだと私を責める。
「イヤ…お兄ちゃん、……怖ぃ…」

知られてしまった恋心に、私は見捨てられる恐怖に涙を滲ませる。
「ごまかすな美咲。それとも、俺に言えないような事をしてたのか?」
知らない男の人みたいなお兄ちゃんの態度に、これ以上嫌われたくなくて私は重い口を開く。
「ゴメン…なさい……。好きなの…。お兄ちゃんのこと、好きなの。……ごめんなさい…」
後から後から溢れ出る涙で歪む視界に俯いて、とうとう言葉にしてしまった気持ちに唇を噛む。
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