クロノ・トリガー

□始まりの鐘
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 ―クロノ




 ―…ああ、うるさいな。
 眠いんだ、寝かせておいて欲しいのに。




 ―クロノ!



 うるさい。うるさいよ、何だよ、どうして起こすんだ。




 ――クロノ!!



 ……ああ、分かった。

 母さんだ。

 そうだ、そうだった。


 煩く忙しなく響く鐘の音。広場のリーネの鐘。

 今日はガルディア王国1000年祭だった。


 昨日はあんなにも早起きしようと思っていたのに。

 いや、今だって思ってる。早く起きなきゃって。
 …けど起きられないから、こんなに苦しんでる訳で。



 母さんは出て行ってしまった。開けられたカーテンから漏れる朝日が眩しい。




 ……いい加減にして…起きなければ…



 むっくり起きあがって、寝呆け眼で頭を掻いた。足下で鳴いた猫が擦り寄ってくる。


 顔を洗って、ふと鏡を見た。


 惚けた顔だ。



 格好付けてキッと睨んでみた。

 が、それはもう吹き出すくらいに、余りに余りにも似合わなくて、直ぐに顔はほどけてしまった。


 気合いを入れるような意味で、鉢巻をきつく締める。




 その瞬間、それは急に

 どこかの何かのスイッチが、入った。


 ……気が、した。



 遊んでいる暇はない。もう祭りは始まっているだろう。

 さっさと一階に降りて、母さんに話し掛ける。


「―母さん、俺もう行くからねー」

「あ、ちょっと待ちなさいクロノ。」


「?」


 首を傾げた。何だ何だ、何かくれるのか?


「…はい、これお小遣い。楽しんできてね」


 渡されたのはほんの僅かな小銭だった。
 …いや、充分だ。祭りで遊ぶだけなら何の不自由もない。寧ろ、そんなに使う場もない。


 ただ、武器防具その他装飾品などは買えない。すべてはたいても木刀より少し上ぐらいだろう。


 しかし、あぁだこうだ言っても思わぬ収入だ。嬉しい誤算だ。素直に喜んでおこう。

「ああ、行ってくる」

 ドアを開けて、一歩踏み出して、


 ―この時は、これから暫く帰れないなんて…― 思いもしなかった。



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