導かれし者達

□第二章 おてんば姫の冒険 U
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「――メイ!」

 緊迫した声に、わたし達は立ち竦んだ。

「――止まりな! 変な真似したらこの女の無事は保証できないぜ…」


 一瞬、理解が追いつかなかった。

 こっちには、ローブを来たおじいさんが一人。あの悪者らしい男を睨んでいる。

 粗暴そうな男二人の足元には、クリフトみたいに頭の堅そうな男の人が倒れていた。

 そして、そいつらの腕にはドレスを着た女の子が捕らえられてる。


 ――誘拐だ…!

「この――!!」
「動くな。この姫サマがどうなってもいいのか?」

 首にナイフを突き付けられた女の子は、泣いて抵抗したのか目は腫れて赤かった。

「……たすけて―…」

 どうしよう!

「…クリフト、ブライ。…魔法でどうにかならないの?」

「私、実践向きなのはマヌーサという目潰しぐらいで……。後はホイミとキアリーしか」
「ヒャドやラリホーは効果的じゃが―…この状況ではやすやすとは使えまい」


「――何をボソボソ喋っている! …おい、行くぜ」

「あっ――待ちなさい!!」

「メイ!!」

 おじいさんにメイと呼ばれた女の子は、誘拐犯に連れられて宿屋の裏口に消えていった。

 急いでそれを追う。


「――卑怯者!! その子を解放しなさい!!」

「黄金の腕輪を渡せばな! せいぜいこのお姫サマの為に洞窟にでも潜るんだな」

「待て! 待ちなさい、逃げるなんて――!」
「姫様!」

「やるなら―ッやるなら正々堂々掛かってきなさいよ! こんなやり方…!! ――こんなのって…」

 町を出た誘拐犯どもは、馬に乗って走り去ってしまった。

 わたしは、それを見ることしかできない。
 いくらなんでも走って追い付く筈もない。

「―…最低…ッ!!」

 それがどちらに向いた言葉なのかは、分からなかった。


 ――弱い。

 いい気になってたんだ。
 テンペの村を救えたからって。何でも出来るような気になってた。

 でも女の子一人救えない。
 わたしは、弱い。

 ただの小娘なんだ――。


「…姫様、あの方を助けるなら対策を練りましょう。あいつら、彼女を姫様と勘違いしています。身の代金なりサントハイムへの通達なり、……何かしら、動きはある筈です」


 動き?
 ヤツらが、欲しがったもの―…。

「…黄金の、腕輪――」

 わたしはそう呟いていた。

「そうよ―黄金の腕輪――!! あいつそう言ってた!」

「……姫様、これからどういたしますかな?」

 後ろにやってきたブライが、私にきいた。

 迷うことなんかない。
 答えなんか決まってる。

「――メイを助けるわ」


 黄金の腕輪。
 それさえあれば助けられるんだ。


「…町へ戻りましょう。何をするにも準備が必要です」
「その黄金の腕輪とやらの情報も、もう少し集めねばなりませんな」

 ――協力してくれるんだ。
 きっと、二人だって許せないって思ってる。

「…そうね、町の人にも話を聞いてみましょう」


 わたしたちは肩を落とす旦那さんの前を通って、町の中へ出た。

「…そういえばクリフト、さっき倒れてたクリフトみたいな人は無事だったの?」

「……ええ、無事でしたよ。致命傷はありませんでしたし、私がホイミ掛けときましたからある程度は」

 あれ?
 何故かクリフトは不服そう。

「…どうしたの?」

「――あの人、私に『礼は幾らでも払う、だから姫様を助けてくれ』…なんて、言ってきました。
……私は、褒美をちらつかせないと動かないような人間に見えるのでしょうか…」

 …なるほど。だからがっかりしてるのね。
 そういえば、あれは私たちのニセ者なんだっけ。すっかり忘れてた。

「あんまり似てなかったわね。ちょっとがっかり」

「でもクリフトは少しばかり似ていましたな」
「わ…私はあんなに傲慢では…!」

「そうよ、クリフトはもっと軟弱だわ!」
「ひ……姫様…」

 庇ってあげたのに、どうして泣きそうなんだろう。


「まぁとりあえず……聞き込みと装備の充実が先よね」

「皆さんは黄金の腕輪についてはご存知なのでしょうか。きっと今はそれどころじゃないでしょうけど……」

「尋ねる相手についても、手当たり次第という訳にはいかないでしょうからな。慎重にならねば」


 それにしても、どうして金でできた腕輪なんて欲しがったんだろうか。
 お金が欲しいなら身の代金を要求したほうがよっぽど沢山手に入るのに。


 わたしには、理由が分からないままだった。
 まだ、人質を解放することしか頭になかったから。


 ずっとずっと後になって、黄金の腕輪の正体が判明するまでは。



 
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