導かれし者達

□第一章 王宮の戦士たちT
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 イムルの村に到着して、まず、歓迎された。待ち望んだ助けなのだろうか。情報収集にも積極的だった。


 子供が失踪する件に関しての情報に混じって、記憶を無くしてしまった男の噂を聞いた。

 パンを盗み地下牢に捕らえられているが、子供がえりしてしまっている、とか。


 少し引っかかったので行ってみた。


 …それは、嘘では無かった。


 湿気が多く、冷たく暗い地下牢。格子の向こう側で、張り付くように此方を見ていた男。


「…おじちゃん、誰?」

 良い大人の筈なのに、その仕草はまるで子供じみていた。

「失礼。私はバトランドからやってきた戦士だ。少し訊きたいのだが、そちらは、どうして此の様な場所に居るのか」

「みんな、ボクを泥棒だって言っていじめるんだ! ボクはおなかが空いたからパンをもらっただけなのにぃ…」


 そう言って泣き出す男を見てまでも、演技だと思い続けることは出来なかった。


「君は、何という名前かな?」

「…ボク?ボクの名前はアレクスだよぅ…」


「…アレクス?」


 はて、聞き覚えがあるような。
 …そうだ、洞窟で会ったあやつ。いなくなった旦那の名がアレクスだと言っていた。

 彼奴の記憶力に感謝せねば。


「そうか、分かった。じきに戻ってくる。しばし待っていてくれ」

 またバトランドに戻るには骨が折れるが、致仕方あるまい。

 情報も行き詰まってきたし、子供がこの男と友達だと言っているのも聞いた。
 もしかしたら、男から新しい事を聞けるかも知れないが、彼がこの状態では無理がある。


 それに、妻だという女性に心配を掛けているのもまた事実。早く教えて差しあげたいところだ。

 日も暮れていた。暗くなってからの移動はあまり好ましくなかった。

 なのでその日は一泊し、もと来た道を引き返した。

 途中の洞窟にはまだあの戦士がいた。
 ……まさか、まさか迷っているはずはない。

 …屈託なく信じようではないか。疑心はやめよう、誉められたことではない。














 ――城下に帰ると安心する。気を張らなくて済むからかも知れない。

 街の人々からフレアという女性の話を聞いた。甲斐甲斐しく夫を待ち続けているという。


 彼女の家は城壁の門のすぐ側だった。綺麗に手入れされた庭が望める。

 ドアをノックすると、すぐに彼女は出てきた。

「…はい、どちら様でしょうか」

「突然のところ大変失礼する。私は王宮戦士のライアンと申す者です。
王の令でイムルへ向かったところ、アレクスと名乗る男と出会いました。何でも、パンを盗んで捕らえられているとか」

「えっ、夫がですか!?」


 子供がえりしている事は告げられなかった。会えば分かってしまうことだが、余計な負担は掛けたくない。


「…そんな、信じられませんわ。夫はそんな人じゃ無かったはず…。
でも、確かに夫はイムルの辺りへ向かっていたのです。湖の真ん中にある塔の秘密を調べると言って…」


 迷うように彷徨っていたご婦人の瞳が、強い意志を湛えて我が輩を捉えた。


「私も連れて行ってください! 何かあったとしか思えませんわ。
きっと…なにか大変な事があったのです。妻として放っては置けません!」

「無論、そう致しましょうぞ。私と共に行きましょう。お守りいたします」




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