導かれし者達
□第一章 王宮の戦士たちT
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陛下の話を聞きながら、私は髭を撫で小さく唸った。
近頃、イムルの町で子供が消えているという。
我々バトランドの戦士達は、この事件解決のために原因解明にイムルへ赴けとの御命令だ。
兵の解散が告げられ、皆思い思いの行動に移った。
「ふーむ…」
これは私も至急イムルへ行かねばなるまい。
子供が危険に晒されているなどと、そんな事は放置してはならない由々しき事態だ。
「ライアン様!」
その御婦人の声に、振り向いた。
この城の者ではないようだ。見覚えはない。その流れで行くと城下町の者でも無さそうだ。
と、考えると、どうやら遠方からいらっしゃった方らしい。
「わたくし、イムルの村から来た者です。…私の息子もいなくなってしまいました。…どうか! 息子を…ププルを見付けてください!!」
と、申されると…この方は失踪した子供の母親か。
「そうでありましたか…。それは気の毒に。
ご心配には及びません。―このライアン、必ずや失踪した子供たちを救い出して見せますぞ」
「ええ、どうか…よろしくお願いします」
深く頭を下げる御婦人に会釈をし、二言三言言葉を交わしてからその場を後にした。
大河を地下道で越えた向こう側の村、イムルまでは片道で約二日ほどだ。
魔物が多ければもう少し掛かることだろう。ぐずぐずしている暇はない。
「ライアン様?」
「―おお! 貴女は」
年甲斐もなく、つい大袈裟な声を出してしまった。
同じく彼女も御婦人だ。が、異なるのは彼女は顔見知りであった事。バトランドの城内によく見掛ける方だ。
彼女は前々から私を慕ってくださっていた。
何かと気に掛けてくれる御仁であり、私には意外にも大切な存在である。
「失礼とは存じますが…。先程の王様の命、そしてお話になられていたイムルの住人の方の懇願。無礼とは思いつつも……わたくし、皆聞いておりました。
イムルへ行かれるのですね。…遠出では色々と不便もありましょう。
どうか、ご自分の身体は大事になさって…。あなた様ならこの事件も、きっと解決へ導くことが出来ると信じていますわ」
男ばかりの王宮戦士という立場上、見目麗しい御婦人に心配をしていただけるのは嬉しきことだ。
勿論男としても悪い気はしない。
その上、心配と共に応援を戴けるとは、心強い。
「お気に掛けていただき、誠に嬉しい限りですな。
なんとも…初めて聞いた時から胸騒ぎがしてなりませぬ。ただの誘拐や失踪とは考えにくい…。
放ってはおけない事件です。今すぐにでも、私は旅立ちたいと」
「―あなた様ほど経験を積んだ方なら大丈夫だと…。…ええ、勿論、そう信じていますわ。
わたくし、ライアン様の旅の安寧を祈ってお待ちしています。ですからどうか、お気を付けられて…」
これは、中途半端にこなすわけには行くまい。
誉められたからと言う訳では無いが、やはり、期待という物を裏切りたくはない。
ああ、こんな事をしている内にも時間は刻々と過ぎ去ってしまう。
私も、もう行かねば。
「では! 貴女の気持ちを無駄にせぬようにも、私はイムルへ参ります。必ずや、事件解決へ貢献できますよう尽力いたしたいと」
心配ながらもできるなら笑顔で、と見送る彼女に敬礼をして、私は城を後にした。
やはり城下町もこの噂で持ちきりらしい。人々を騒がす不穏の種など、決して好ましいものではない。
最低限の装備を整え、城下町を出た。途中会った仲間にのろまだと馬鹿にされる。
―まったく、相も変わらずに失敬な奴だ。
人をのろま扱いしておきながら、自分自身たった今の瞬間に私に追い抜かれたというのに。…まったく、呆れて物も言えん。
途中、どうしても地下道を通らねばならない。
あそこは魔物も多く危険な場所だ。
用心しながらも立ち往生はできない。
―筈なのだが…
壁に下げられたランプだけが灯りという存在。
それがぼんやりと辺りを照らし、入り組んでいることもあり視界の悪い地下道。
足音を殺しながら剣を構え、険しい角の向こうを窺った。
確かに、何かが息をする気配がある。
膠着状態に見切りを付けようと、飛び出した
――瞬間。
「ぬぁああ―ッ!!」
「おのれ!! 気配は察していたぞ!」
剣が合わさり、耳障りな音がした。
随分昔、まだ新米の兵だった頃はこの音がどうしても苦手だったが、経験を積む内に気にならなくなってしまった。
しかし、この男は―