パレット・マジック

□旅立ち
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 ―バタン、と


 玄関のドアが、閉まった。

 メイコは兄を見送らなかった。見送れなかった。

 後ろ姿を見たら名残惜しくなってしまう。心細くなって泣いてしまうかも知れない。

 そんなのは兄に迷惑だ。後ろ髪を引くような真似はできない。―子供ではないのだから。

 村人達に兄が見送られている。歓声が聞こえる。もう、行ってしまう。



「…ああ、―もう」


 ぱたり

 エプロンに、グレーの染みが落ちた。

「馬鹿―…」


 その上に顔を伏せた。やっぱり泣いてしまった。泣かないと昔から決めていたのに。

 それこそ小さい頃から。


 ぐず、と、詰まった鼻を啜った。


 ―と、同時に


 ドアの向こう側。一枚板の向こう。

 から、断末魔の絶叫が響いた。

「…っ!?」

 咄嗟に顔を上げた。
 血の気が引く。

 泣いていたことなんか忘れて、涙なんか忘れて、彼女は跳ね起きた。

 真鋳のドアノブにかじり付いて、悲鳴や刃の合さる音の絶えない向こう側を目指す。

 震える指はじれったさだけを残してノブを回し、家の内と外が繋がる。


「―そんっ…な…!!!」


 その光景に、立ち竦んだ。




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